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ならチェンバーアンサンブル 第65回定期演奏会

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ならチェンバーアンサンブル 第65回定期演奏会
2003年6月22日(日) 14:00 学園前ホール

ヨハン・シュトラウス: 美しく青きドナウ <Vn,Vc,p>
シューベルト: 水面に歌う <Vn,Vc,p>
ショパン: 雨だれ前奏曲 <p>
ラヴェル: 水の戯れ <p>
サン=サーンス: 白鳥 <Vc,p>
タヴィドフ: 噴水のほとり <Vc,p>
ブラームス: ヴァイオリン・ソナタ第1番「雨の歌」より第3楽章 <Vn,p>
シューベルト: ピアノ五重奏曲イ長調D.667「ます」 <Vn,Va,Vc,cb,p>

(アンコール)シューベルト: 行進曲「ウィーンはウィーン」 <Vn,Va,Vc,cb,p>

五十嵐由紀子(ヴァイオリン)
植田延江(ヴィオラ)
斎藤建寛(チェロ)
南出伸一(コントラバス)
大橋邦康(ピアノ)


学園前ホールでのならチェンバーの演奏会は「水の戯れ」と題されたもの。 このうっとおしい梅雨の季節、せめてもクラシックの音楽で水や雨に親しんでもらいたいとの意図でこのようになったとのこと。 そして、その狙いどおり素適な音楽の数々を楽しませてもらった。 特にシューベルトの「ます」は、メンバー全員の響きの調和と確かな独奏があいまった充実した演奏だったと思う。 特に第4楽章は入魂の演奏といってもいいかもしれない。 各楽器がシューベルトの歌の世界をぞんぶんに演出していた。 そしてアンコールの「ウィーンはウィーン」は、南出さんの解説の影響が大きく作用したと思うが、とても元気のいい音楽で気分も軽くなってホールをあとにすることができた。

今回、プログラムがオムニバス形式っぽく、前半の演奏はしっかりしていても流れ的にやや散漫な感じも受けたのだけれど、これらはオードブルだったのかも。 休憩後のメインディッシュできちっと締めて、そしてデザートともいえるアンコールもとても美味しくいただけた満足のフルコースといってもいいかもしれない。 非常に満足した演奏会だった。


簡単に演奏会を振り返ってたいと思う。

満席で補助席も出ていたようだ。 とにかく学園前ホールでのならチェンバーは座席数が少ないこともあって(305席)早々に売切れる。 今回、市役所に問い合わせたら当日券が出るかどうかも分からないとのことだったが、北部出張所で売れ残った5枚が当日券になるとの情報を得て、ようやく入場券を入手することが出来たのはラッキーだったと思う。 

定刻になって綺麗な青のドレスを着た五十嵐さんが登場。 しかしいつ見てもお美しい方で、世が世なら J-Classics のアイドル路線にのっていたかも(もうウン年遅く生まれていたなら・・・と年齢を詮索するのはよしましょう)。 とにかく、この演奏会のプログラムには経費の関係からか曲目解説がなく、演奏者が解説するのが恒例になっているのがとても有難い。 逆に演奏者側には大変だと思うのだが、これを続けてくださっていることに心から感謝したい。 とにかく演奏会の趣旨などを話されて、まずはピアノ三重奏の編成で「美しく青きドナウ」と歌曲を編曲した「水面に歌う」が演奏された。

「美しく青きドナウ」は冒頭の演奏だったこともあるし、また雨の影響もあるのだろうか、ややぎこちなさを感じる演奏だった。 ピアノのさざなみからチェロ、そしてヴァイオリンへと序奏が繋がっていった。 しかし全般的に五十嵐さんのヴァイオリンが綺麗に鳴っていなくて少々耳に痛い感じだったのが残念。 湿気の関係ではないだろうか。 続く「水面に歌う」は、主旋律をヴァイオリン、チェロ、ピアノと廻していったがチェロの斎藤さんの安らかさを憶えさせてくれる響きが良かった。 ただやはり全般的に暖気運転といった感じがしなくもなかったけれど。

次ぎはピアノの大橋さんが出てこられての解説。 ショパンの雨だれは24の前奏曲の15番目の曲であることや、ラヴェルがスイスの精密機械のようだとストラヴィンスキーが言っていたことなどを紹介して演奏に入られた。 ショパンの明るくて非常に健康的な印象を持った。 媚びるようなところが一切ない演奏で、これが大橋さんの資質ではないだろうか。 ラヴェルは非常に煌びやかなタッチに加えて、情感もあり、盛り上がったときのうねり感など非常に聴きごたえのある演奏だった。 ならチェンバーでは脇に回ることの多い人だが、ここぞ、といった気合も感じた。

斎藤さんが出てこられての解説。 サン=サーンスの白鳥は軽くふれてタヴィドフとチャイコフスキーがモスクワ音楽院の院長を争った話をし、タヴィドフがチェロ界では巨人のような人であったことを教えてくださった。 まず「白鳥」はじつに優しい響きで会場を魅了していた。 さすがに名曲といわれることがあるなぁ、といった印象。 ふっと口ずさみたくなるような演奏だった。 惜しむらくは、最後の響きが消えないうちに拍手が飛び出したこと。 これはどうか・・・といった感じ(いつもは気にしないけど今回はちょっとねぇ)。 「噴水のほとり」は一転して超絶技巧な曲。 フレットを抑える左手を見ているだけでもアレアレって思うほどよく動かしていた。 なんかきっちりと終わって満足した・・・ってな感じかな。 

再度、五十嵐さんの登場で「雨の歌」の詩の紹介などがあって、演奏開始。 先ほどより随分よくなったと思うけど、まだちょっと堅いような気がしたのは曲の性格にもよるものか。 グリュミオーに通じるようなやや独特な響き(美音)と女性らしさもあって粘り気のないある意味端正な演奏だったと思う。 ちょっと印象が薄いことも確かだけれど。

休憩を挟んで、全員が揃って演奏する前に、チェロの斎藤さんが出てこられての解説。 プログラムの鱒の字が、鱈になっていたり鮭になっていた話で会場の雰囲気をなごませてくれた。 で、演奏は実に活気あふれる思いきりの良い演奏で、まるで生きづいて飛び跳ねる鱒のごとくな第4楽章が秀逸だった。
アンサンブルの主導権は五十嵐さんと斎藤さんがとっていたのはいつもどおりだろう。 緻密なヴァイオリンに雄弁なチェロといった感じ。 ここに南出さんの芯になるコントラバスがベースとなり、端正で控えめなピアノと手堅いヴィオラなど各楽器が絡み合い、そして奏であってシューベルトの歌の世界をぞんぶんに演出していたと思う。 この演奏会のなかではさすがに格が違う演奏だった。
第1楽章は思いきり良く飛び出し、そのあとも響き合って上々の滑りだし。 活気にあふれ躍動感のある演奏。 勢い良かったこともあって第2楽章のまえにチューニングをし、明るくのどかな第2楽章となった。 ここでは後半は伸びやかに奏でるヴィオラが印象的だった。 第3楽章もまた勢いよく元気な演奏となり、この演奏のあとまたチューニングを実施。 第4楽章はちょっとゆったりと始まったろうか、各楽器が響きあって本当に素晴らしい。 ピアノの演奏のバックで弾くコントラバスも見事に生きづいていた。 とにかく各奏者が歌っていることを特筆しておきたい。 そして力強い終楽章としって気合の入ったアンサンブルで最後を締めくくり、会場からも一際大きな拍手を受けていた。 誰も突出することなく、また各自の個性もきちんと出ていた素晴らしいアンサンブルだった。

アンコールは、南出さんが何故この水に関係ない曲になったかのネタばらしをしたあと、ナイターの前に流れる曲で皆さんご存知ですと言い、20年に一度の奇跡や、今晩は東京ドームです、と続けて会場を沸かせた。 そして演奏が始まるや否や、おもわず手拍子も出かかった。 とにかく和気藹々のムードのなかアンコール演奏が続いた。 五十嵐さんのシュランメルを意識したような響きも面白かった。 とても元気のいい音楽で気分も軽くなりホールを後にすることができた。 そして、このような楽しくかつ素晴らしいならチェンバーの演奏会が奈良市主催で15年も続けられていることに大きな意義も感じた演奏会だった。 今後もならチェンバーを応援してゆきたい。