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奈良交響楽団 第43回定期演奏会

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奈良交響楽団 第43回定期演奏会
2003年6月29日(日) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

ボロディン: 歌劇「イーゴリ公」より
  だったんの娘たちの踊り/だったん人の踊り
グリーグ: 劇音楽「ペール・ギュント」より
  朝/オーゼの死/アニトラの踊り/ペール・ギュントの帰郷/ソルヴェイグの歌/山の魔王の宮殿で
チャイコフスキー: 交響曲第2番ハ短調 作品17「ウクライナ」

(アンコール)チャイコフスキー: 歌劇「エフゲニー・オネーギン」より ポロネーズ

指揮:高谷光信


1977年生まれ、若干26才ながらロシアで修行された高谷光信さん。 この高谷さんの指揮のもと、これまでの奈良響とは一味違ったカラフルさと豪快さを併せ持った実にに素晴らしい演奏会でした。 特に打楽器を強打させる場面などはスカッとして、一緒に演奏させてもらえたならどんなに気持ち良いだろうに・・・と思ったほどです。 奈良交響楽団というとアットホームなのですが、どちらかというとちょっと真面目で地味な面も感じていたのですが、今回の演奏会では文化会館を飽和させるほどの大音量による演奏も凄かったですし、ペール・ギュントの「オーセの死」や「アニトラの踊り」また交響曲の第2楽章などの抒情的な場面においても、じわっとくる有機的なアンサンブルがとても素晴らしかったですね。 正直これまで聞かせていただいた奈良響の演奏会の中で一番パワフルでかつ繊細さもよく出ていた演奏会だったと思います。 

ちょっと話は飛んでしまいますが、ここ3年ほどあちらこちらのアマチュア・オーケストラの演奏会に伺わせてもらています。 その個人的な経験から、マーラーの交響曲を定期演奏会で取り上げたオーケストラは翌回以降の定期演奏会の演奏レベルが向上するという持論を持っています。 そして奈良響もまたこの例に漏れず、今回グンと巧くなっていました。 また今回、若くて意欲的な指揮者の方と組まれたことも大きかったと思いますが、これからもますます発展され、素晴らしい演奏を期待したいと思っています。 
とにかく大成功、よかったです。


簡単に演奏会を振り返って見たいと思います。

開演10分ほど前に会場に到着したので、急いで2階席に直行しました。 左右ブロックの最前列がまだ開いててちょっと魅力的だったのですが(ここは足を伸ばしてリラックスできますので)、中央通路後ろの前列中央付近に落着きました。 けっこう天井に近く、ステージからずいぶんと遠くなるのですけれど、見晴らしが良いのと、音響にムラのあるこのホールでは響きが安定している位置だと思っています(1階席は座る位置によって音の響き方がかなり違うようなのです)。 

ただちょっと残念だったのは、有名曲(だったん人の踊りとペール・ギュント)をラインナップしているせいでしょうね、小さな子供さんが多くて騒がしかったことでしょうか。 休憩時間にはベビー・カーを何台も見たのには吃驚しました(オケのほうも慌てて母子室の利用を呼びかけていましたけれど、あまり効果はなかったようです)。 もっとも僕のほうは通勤時、しかも地下鉄という劣悪な環境でもCDプレーヤで音楽を聴くことに慣れていますし、アマオケの演奏会でよくあるこのような光景には慣れてしまっていますので、少々のことは気にしないので大丈夫ですけれど、それでもちょっとヒヤヒヤした場面もありました。 

さて、オケは通常配置で12型、コントラバスが6本というオーソドックスな編成でした。 にこやかな表情をたたえながら高谷さんが登場しました。 客席に向って深々とおじぎをされたあと「だったんの娘たちの踊り」と「だったん人の踊り」が続けて演奏されました。 そしてこのフィナーレの大音響には吃驚しました。 奈良県文化会館で音が飽和するほどの音響を聴いたのは、たぶん、これが初めてではないでしょうか。 いやぁ〜すごい音量だったのですが、ただデカイ音だけではなく、底鳴りのする力強さにシャープもあるため、とってもキレの良い響きで素晴らしかったですね。 ブラボーがかからなかったのが不思議なくらいでした。

もっとも冒頭のだったんの娘たちの踊りは、出足ちょっと手探り気味だったのか散漫な印象も持ちましたが、ここらはにこやかに登場された高谷さんらしく楽しい演奏を心がけているのかな、とも思いました。 全体的にカラフルな感じがしていましたが、エキゾッチクな響きによるクラリネットやオーボエの旋律で本調子になったのでしょうか、弦楽器も香り立つような響きになりました。 そして、だったん人の踊りになったあたり、ゆったりとした大きな音楽も魅力的でしたね。 それから殊更に煽りたてることはないのに音楽がどんどん大きくなって、底鳴りがしてキレの良い打楽器軍団の響きからすごい音量となったフィナーレに結ばれました。 いきなりこんな凄い演奏になったのにはちょっと吃驚しました。

舞台が暗転、管楽器奏者が一部入れ替わって清新な「ペール・ギュント」が始まりました。 綺麗な「朝」も素晴らしかったのですけど、個人的にはややウェットな感じがした「オーセの死」「アニトラの踊り」などの抒情的な弦楽合奏が魅力的でした。 ゆったりとしていて、でも暗さとか粘っこさがしつこく纏わりつかない弦合奏は素晴らしかったと思います。 そして「ペール・ギュントの帰郷」での色彩感とパンチのある演奏からアタッカで入った「ソルヴェイグの歌」もまたゆったりしていて、弦楽器がよく歌っていたようです。 そしてフィナーレの「山の魔王の宮殿で」では、またぐいぐいとスピードを乗せてきて、キレの良い打楽器軍団による力感溢れた演奏で全体が締めくくられました。 

高谷さんの演奏は、とにかくキレの良い打楽器でグンと盛り上げるのです(「ペール・ギュントの帰郷」でもそうでした)が、けっしてこれが上滑り聞こえることがありません。 構成感がしっかりしていることもあると思いますが、暖徐的な部分もじっくりと演奏し、各楽器にはよく歌わせていたことが大きいと思います。 けっして強弱をはっきりとつけた景気の良いだけの音楽ではなく、デリカシーにも富んだ演奏だったと思います。 そしてこれによく応えていた奈良響を称えたいと思います。

休憩をはさんでメインのチャイコフスキーの交響曲第2番もまたスケールの大きな演奏でした。 冒頭のホルンのメロディも見事だったし、終楽章のパワー溢れた演奏も凄かった。 とにかくチャイコフスキーらしい見せ場(聴かせどころ)をめいっぱい楽しませてもらった音楽でした。 強いていうなら、好みもあるかと思いますが、粘り気にやや乏しい面があったと思います(個人的にはこのほうが好きなんですけどね)。 とにかく若い指揮者ですから、今から粘ってどうする・・・とは思うのですけども、CDなどで予習してきた感覚からするとちょっとこのあたりが乏しかったように感じました。 ま、誉めてばかりもナニなので・・・ さて

第1楽章の冒頭、2階席で子供がダダをこねている声がしてヒヤヒヤしましたが、高谷さんは意を決したように両腕を高くかかげて、さっと振り下ろしました。 和音が鳴り響き、そのあとのホルン・ソロが見事に滑り出しました(聴くほうも緊張しました)。 実に見事なソロでした。 普通でもここはとても緊張するところでしょうが、子供の声をものともしませんでした。 このあとファゴットに引き継がれ、低弦のピチカートにも情感がありました。 ただここからあとはちょっと緊張が切れたのでしょうか、なんだか手探り的な印象も持ちましたけど、ホルンのソロが繰り返されてクラリネットの旋律による主部に入ってからグンと力が入ったようです。 弦楽器で旋律が執拗に繰り返されるあたり、音が弾けて飛び出す感じと畳掛けていく感じが繰り返されメリハリがあります。 上から見ているから弦楽器の分奏もよく決まっててカッコよかったですね。 とても元気のある音楽でした。
第2楽章は、一転して悠然とした音楽になりました。 ちょっとテンポも遅かったのでしょうか、クラリネットとファゴットによる豊かな響きと、これを引き継いだ弦楽器が爽やかな響きで、くるみ割人形の音楽みたいに可愛らしくもありました。 各管楽器、各弦楽器の響きのそれぞれが有機的に絡んでいて、ウクライナの大地の暖かさのようなものを感じた楽章でした。
第3楽章は、対照的に賑やかな感じのするスケルツォで、キレの良い音楽が戻ってきました。 中間部のトリオでのクラリネットがチャーミングでした。 そして音楽はまたキレが良くスパスパと先に進んでいくみたいで、ここはもうちょっと粘り気があってもよかったかな、なんて思いました。 
そして終楽章はスケールの大きな序奏で始まりました。 ここでエネルギーを放出したあと、弦楽器が丁寧な合奏で旋律を奏でたあと木管楽器も加わってにぎやかになりました。 そして打楽器が入ると一気にまた豪快な音楽になるのはこれまでどおりですね。 本当に凄い。 でもしかし弦楽器に旋律が戻ると艶やかな合奏、チャーミングな木管の響きにスパっと切り替わります。 とにかく打楽器の豪快な響きときちんと描き分けられながら音楽がどんどんと進んでいきました。 なんとなくチャイコフスキーらしい分かり易さを感じるのですけど、見せ場(聴かせどころ)をめいっぱい楽しませてもらったみたいでした。 そして銅鑼の一撃。 最後まで響きをきちんと残してからフィナーレの大団円になり豪快に締めくくられました。 

打楽器の皆さん、本当にお疲れさまでした。 でも、この中に一緒に入ってバス・ドラムを叩いたらさぞかしスカっとするんではないか、と思って見て(聴いて)いました。 とにかくこのように鳴らせる部分はしっかり鳴らしているし、また抒情的な場面もよく歌っていたとても充実した演奏に大満足。 ほんとうに素晴らしい演奏会でした。