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六甲フィルハーモニー管弦楽団 第17回定期演奏会

統制のとれた見事な巨人に感嘆戻る


六甲フィルハーモニー管弦楽団 第17回定期演奏会
2004年2月29日(日) 14:00 神戸文化ホール・大ホール

ブラームス: ハイドンの主題による変奏曲
マーラー: 交響曲第1番ニ長調「巨人」

指揮: 藏野 雅彦


見事なマーラーの巨人の演奏に打ちのめされました。 巧かったですね。 とくに管楽器。 ここの扱いがとても巧いのが印象に残りました。 奏者の方の技量も巧いのでしょうけど、藏野さんご自身がトランペット奏者だからでしょうか、間とか抑揚とか、じつに素晴らしかった。 奏者の個人プレーで聴かせたというよりも、全体の演奏として、とてもしっかりとした演奏になっていたのが見事でした。 特に印象に残ったのはオーボエの女性。 出番じゃない部分でも左手を指揮者の動きに合わせて調子をとっていました。 これでしっかりと流れに乗り、じつに見事な表情のついた演奏として仕上げていました。 これを最初から最後まで、ずっとやっていました。 こんなのを見つけてしまうと、こっちまでどんどんと演奏に引き込まれていきますよね。 この女性に限らず、木管のベルアップなど角度もピタッと揃っているし、ホルンのベルアップもまた然り(ベルアップの訓練したんじゃないかと思われるほどの統制とれた動き)、本当に見事な演奏でした。
比較してみても意味はないと思いますが、先週聴いたアンサンブル・フォルツァの演奏は、弦楽器に比重をおいた演奏だったようです。 個々の弦楽器群のかけあいや旋律の歌いまわしがとても新鮮でドラマティックな感じがしました。 しかしこちらの演奏は、個々の旋律のドラマ性よりも、オーケストラ総体としての音楽の充足感を重視しているように感じました。 
いずれも見事な演奏でした。 2週間連続で、このような素晴らしい巨人の演奏を聴けたのがとても幸せでした。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

六甲フィルハーモニー管弦楽団、神戸大学オケのOBが主体になったオケとのことです。 始めて聴かせていただきました。
実はこの時期、演奏会が少ないのでインターネットで探っていてこの演奏会を見つけました。 関西で売り出し中の指揮者・藏野雅彦さんの指揮でマーラーの巨人が演奏され、しかも無料公演とあっては、ちょっと見過ごすわけにはいきません。

しかしながら、前夜からの雨で、明け方は強く降っていました。 うっとおしいなぁ〜、雨で足元が悪くなるってこともありますけど、足のふくろはぎのあたりも重たくてね。 なんだか気乗りしなかったんです。 でも雨は昼前にあがりました。 家でごろごろしてても何も良いことないよなぁ〜 なんて思い、踏ん切って出かけることにしました。
そんなことで家を出たのが、ちょうど12時。 JR神戸駅から緩い坂をせっせと登り、会場である大倉山の文化ホールには開演10分ほど前に到着しました。 片道2時間弱かかっています。 これからここで2時間かけて音楽を聴いて、また2時間かけて帰るのかぁ。 いったい何なんやろね(こんなことさせる原動力は)・・・って正直自分でも思ったのですが、演奏会を終えた時には、2時間かけて帰るのが全然苦痛じゃなかった。 それどころか、よかったなぁ、こんな音楽聴いたら元気になるよなぁ、って思ってて、とても明るい気持ちになって会場を後にしていました。

話をもどし、大ホールへの階段を昇ると、演台みたいな上に白いカードが置いてありました。 あと男女それぞれ1名づつ、ホールの入口に立っておられて、何か配っているようです。 始めてのオケなんでちょっと勝手が分かりませんが(無料演奏のはずだけど、ホントかな、なんてね少々不安)、演台のカードには「招待状」と印刷されている気付きました。 これを1枚とって入ることにしました。 男女の方は、招待状を持っていない人にそれを配っているようでした。 入場者人数を確認するために「招待状」が必要なんでしょうね、きっと。
「招待状」を持ち、笑顔でホールに迎え入れると脱兎のごとく2階席へ。 中央右よりで前から4列目に座ることができました。 1階席はよく見えませんが6〜7割入っていたでしょうか。 無料公演なんで、もうちょっと沢山入っているかなぁ、と思ったのですが、プログラムを見てなんとなく納得。 このホールを使うのは始めてのようです。 いつもは中ホールを使われていたようで、団内指揮者の方による演奏会でした。 確かホームページにも六甲フィルらしくない大曲に挑戦するような記載もあったことを思い出しました。 期待と不安が高まります。

なおプログラムに挟み込まれたチラシの中に、「ようこそオーケストラへ」という紙が折り込まれていました。 プログラムの他に団員紹介などの紙を入れられている団もありますが、この団の「ようこそオーケストラへ」は半面がオーケストラの楽器の紹介、あと半面が曲目紹介なんですが、小学生向けの内容になっています。 
最初に3つの「やくそく」として「おしゃべりをしません」「はしりまわりません」「おかしをたべません」ということが書かれています。 今回、この言葉が読めないような小さな子供さんもいらっしゃいましたけど、けっこう静かであったと思います(お父さんが娘をかかえて階段をダッシュして駆け上がるような場面もありましたけどね。 お父さん、ご苦労さまです。楽しむためには苦労が多いですよね)。 
オーケストラの楽器紹介ですが、オーケストラの図が描かれていますが、舞台のオケの配置は対抗配置になってて違っています。 藏野さんのいつもの配置なんですが、ちょっと罪作りなことしたなぁ〜と思って読んでみると、ウィーンの古い配置なので「まちがいさがし」の気分で楽器を見つけよう・・・とは考えましたね。
曲目紹介も平易ですが、要点をしっかり押さえてます。 ハイドンの主題による変奏曲では、各変奏毎に曲の特徴と時間が1行で書かれています。 マーラーの巨人も各楽章の曲の感じが3〜5行で要領良く書かれているのは見事です。 こちらにも演奏時間が楽章毎に書いてあります。 とても参考になりました。 特にハイドンの主題による変奏曲では大いに参考にさせていただきました。

どんどんと話がそれていきますけど、ようやく定刻になりました。
オケのチューニングが終わって、さっそうと藏野さんが登場。 まずは、ブラームスのハイドンの主題による変奏曲。 聖アントニーのコラールを柔らかい響きによってスタートさせました。 このコラールがハイドンの作ではないことも先の「ようこそオーケストラへ」に書かれてます。 僕はこの紙を参考にして各変奏曲を聞いたのですが、変奏が始まる前にも一瞬の間を置いてくれたし、最後まで迷うことがありませんでした。 それだけきちっとした演奏だったとも言えますが、こなれてきたのは第4変奏の後半くらいからでしょうか。 前半はなんとなくぎこちない感じのする場面も散見されました。 そして後半になるほど密度が増してきた感じです。 第8変奏は緻密に組み立てていましたし、終曲はゆったりと大きな呼吸をしながら集中力を高めていったようです。 最後は高らかにエンディングを決めました。 小手調べといったところでしょう。

20分間の休憩のあと、いよいよマーラーの交響曲第1番「巨人」の演奏です。 結論から言って、先の曲とは全く違うオケの印象を持つ素晴らしい演奏になりました。
2階席の隅の方で小さな女の子(1・2歳くらい)がキャ・・・キャ・・・って言う声が聞こえてましたが、藏野さんが登場。 一礼してオケのほうを向きましたけど、まだ女の子はご満悦みたいでキャって言ってます。 音楽が始まる瞬間、仕方なく若いお父さんが娘を小脇にかかえ、階段をダッシュして駆け上がってゆきました。 う〜んんん、ご本人は辛いでしょうけどね、セーフでした。 繊細で透明感の高い音が奏でられ始めました。 この緻密な音の感じ、さっきのブラームスとは全く違うのに吃驚しました。 続いて、バス・クラリネットの響きに潤いがあって魅了されます。 バンダのトランペットも見事。 クラリネット、ホルンと続きますが、いずれの管楽器がみな巧い。 皆さん緊張はあるんでしょうが、ゆったりとした音楽で見事に朝の気分です。 チェロによるさすらう若人の歌からの旋律は、やわらかく奏でられます。 ヴァイオリンの響きは透明感があって綺麗。 先週聴いたアンサンブル・フォルツァの巨人は弦楽器が主体になっているように感じましたが、このオケは管楽器の扱いがとても巧いのに惹かれます。 個人のテクニックによるところも大きいと思いますがが、藏野さんご自身がトランペット奏者だったからでしょうか、ちょっとした間とか旋律の歌わせ方、抑揚みたいなのが実に素晴らしいんですね。 聴き惚れて、オケを見ていると自然と目が管楽器奏者へとゆくのですけど、ここでオーボエ奏者の女性に釘付けになってしまいました。 吹いていない時、指揮者を真っ直ぐに見て、しきりに左手でリズムをとっています。 指揮者と同じように左手をゆらゆらと動かしてて、曲の流れにのり、じつに見事な表情のついた演奏として仕上げていました。 これを最後までずっとやっていました。 こんなのを見つけてしまうと、こっちまでどんどんと演奏に引き込まれていきますね。 さて、エンディング。 大きく抑揚をつけたあと、たたみかけるように走って、バシッと決めました。 残響がホールに残って気持ちよかったです。

第2楽章、力強いコントラバスの響きがやや速めに流れていきます。 この左からのコントラバスの響きに、右側からホルンの斉奏が対します。 先週と反対ですね。 ですが、この対立をことさらに強調するような感じではなく、熱い音楽が猛然と進んでいく感じ。 木管のベルアップ、角度がきちんと揃ってますしね。 綺麗な揃い具合にベルアップの角度まで練習したのではないかと思えるほどです。 そしてホルンのベルアップもまた同様、見ていて気持ちいいほどに曲がズンズンと進めて、たたみかけるようにクライマックスを築き、バサっと切り落としました。ここでほとんど止まることなく、ホルンの旋律へ。 綺麗な響きですね。 弦の美しい旋律、オーボエ、フルートの綺麗な響き。 このあたりもちょっと速めだったかな、普通かもしれませんが、音楽がケレン味なく進められていって、藏野さんが手を大きくあげて、パンと響きを残して終わりました。

第3楽章の前にチューニングを実施。 ティムパニはそれまで弾力はあるけど響きの少ない音でしたが、この楽章ではマレットを交換したみたいです。 柔らかい響きの打音から、コントラバスのソロが繰り出されました。 線がちょっと細くて侘しさを感じさせるようなソロでした。 この楽章も木管楽器の巧さが光っていたように思います。 オーボエの女性など真っ赤な顔して吹いてました。 ただ、オケの音の数が少なくなると、全体的な纏まり感がやや乏しくなった場面もあったようです。 ちょっと淡々とした感じだったのでそう思ったのかもしれませんけどね。 

第4楽章は、ほんの一瞬の間をとって息を合わせての突入。 タイトにぐんぐんと盛り上げていきました。 しかも常に余力感じさせる演奏なのが素晴らしいですね。 ここで気付いたのは、銅鑼。 使わないときにはちゃんとカバーをかけています。 使う時だけカバーを外し、終わったらまたカバーをかける。 こんなことも余裕に結びついているのでしょうか。 ぐっと盛り上げたあと静かになって、ヴァイオリンがゆったりと旋律を響かせます。 やや淡白な感じなんですが、これは藏野さんの特質かもしれません。 全体的に弦楽器群同士の旋律の歌いまわしには思いいれは持たず、音楽全体の交通整理をきちんとつけているような感じがしました。 ただ管楽器への指示も、思い入れの感じない指揮なんですね。 でも出てきた音楽は先に書いたとおりですから、ちょっと勘違いがあるかもしれません。 単純に弦楽器に賛助と書かれたエキストラが多いからかな、とも思いましたけど、先週聴いたアンサンブル・フォルツァとは違ったアプローチになっていることは確かだと思います。 なんてことを考えながら聴いているうちにエンディングがどんどん近づいてきて盛り上がっていきました。 ホルンの斉奏、響きが混濁せず見事ですね。 起立して吹くところも、先週は後ろにトロンボーン奏者が2人ほどアシストしていたようですが、このオケではそんなの不要。 さすがです。 トランペットも甘く煌いてましたね。 そしてフィナーレは大太鼓がド〜ンを響く迫力のなか曲を閉じました。 素晴らしい巨人の演奏でした。

正直、ブラームスの演奏を聴いているとき、どうなるのかな、と心配したりしたんですが、それは全くの杞憂でした。 ほんと全く別のオーケストラのような演奏で、1回で2度おいしい、っていうのは違うとは思いますが、そんな感じ。 ほんと素晴らしい演奏だったと思います。
比較してみても意味はないと思いますが、先週聴いたアンサンブル・フォルツァの演奏は、弦楽器に比重をおいた演奏だったようです。 個々の弦楽器群のかけあいや旋律の歌いまわしがとても新鮮でドラマティックな感じがしました。 しかしこちらの演奏は、個々の旋律のドラマ性よりも、オーケストラ総体としての音楽の充足感を重視しているように感じました。 
いずれも見事な演奏でした。 2週間連続で、このような素晴らしい巨人の演奏を聴けたのがとても幸せでした。