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奈良フィルハーモニー管弦楽団 第14回定期演奏会

エネルギッシュな指揮のもと、潔い音楽が素晴らしい戻る


奈良フィルハーモニー管弦楽団 第14回定期演奏会
2004年3月7日(日) 13:30 奈良県文化会館国際ホール

ウェーバー: 歌劇「オベロン」序曲
ショパン: ピアノ協奏曲第2番 作品21
ドヴォルザーク: 交響曲第8番 作品8

アンコール: 岡野貞一作曲、北川文雄編曲: 故郷

独奏: 大江 章子(p)

指揮: 阪 哲朗


奈良フィルの定期演奏会は第5回から聴いていますが、その中でも一番素晴らしい演奏会だったのではないでしょうか。 阪哲朗さんのエネルギッシュな指揮のもと、奈良フィル本来の美しい響きを持続したまま一回りも二回りもスケールの大きな音楽を聴かせてくれました。 
何といってもドヴォルザークの交響曲第8番。 ダイナミクスの大きな躍動感のある音楽でした。 それに加え、瑞々しさ、豊穣感、詩情など繊細な表現も奈良フィルから次々と引き出し、この曲の素晴らしさ面白さを改めて堪能させてもらいました。 それはもちろん奈良フィルメンバーの皆さんが、この阪さんの指揮に実によく応えていたからでしょう。 いつもながら響きの美しい木管は当然として、艶が乗って力強い金管、リズム感よく要所を締め上げたティムパニ、そして今回特筆すべきはオーケストラの基本である弦楽器。 これが雄弁であったから、オーケストラ全体としても高いレベルでの演奏になったことは間違いありません。 とにかく切れの良い阪さんの指揮ぶりからは、ひとつひとつの音やフレーズに対する拘りや厳しさが感じられました。 素晴らしい演奏を聴いた。 もうそれだけで充分だと思いました。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

12時20分ころに家を出たら雪が降ってきました。 午前中は風が冷たかったものの晴れていたのに、空は鉛色になってます。 マフラーと帽子を被って出てきて正解、と思ったんですが、雪がどんどん強く降ってきます。 なんだか北海道で生活していたことを思い出しながら、風に舞いながら降る雪のなかを駅に向いました。
ちょっと寄り道をしたので会場には13時2〜3分前に到着したら既に開場されてました。 え、指揮者が阪さんなので人が溢れて早目に開場したのかしら・・・と慌てて入場。 個人的な指定席にしている2階席に直行して最前列中央をゲットしました。
雪も降って寒いせいでしょうかね、すぐにトイレに行きたくなってしまいます。 ロビーに出たら、柔らかく愛らしい響きが。 プレ・コンサートでした。 モーツァルトの弦楽四重奏曲K.156だそうです。 2階ロビーからちょっと聴かせてもらってから、階下に降り、受付に行って会員更新をしようとしたんですが、休憩時間にお願いしますとのこと。 とにかく1階ロビーは混み合っているので、また2階にあがってプレ・コンサートをまた聴いていました。 今回も奈良テレビの収録が入っているようで、カメラを持って移動している局の方がいます。 2階ロビーにもやってきたので、それをしおに席に戻ることにしました。 

ステージではコントラバスの方を始め、数名の方が練習されていました。 けっこう気合が入っているみたいですね。 ちなみにコントラバスは舞台左手奥の対向配置です。
さて定刻。 プレトークのホルンの東谷が登場しますと、ようやくこれに気付いたコントラバスの方が袖に引っ込みました。 
プレトークでは、音楽と国境の話をされました。 音楽には国境は無いと言われるが、演奏者として音楽に向うとき、地方性などや理解しがたいところがあるので、実は音楽にも国境があるのではないかと思っていることを述べられました。 しかし、演奏を聴く立場になると、国境や次元を超えて訴えかけるものがあることも事実であって、やはり音楽には国境が無いということに帰結してしまう。 果たして音楽には国境があるのか無いのか、そんなことを考えながら聴いてみてはどうだろうか、と言われて下がられました。 いつもながらちょっと考えさせられる話題ですね。

メンバーが出てきてチューニングを終え、阪さんがゆったりとした大きな歩みで出てこられました。 それだけでも自信を感じるから不思議ですね。 やはり上り調子だからでしょうか。
1曲目はオベロン序曲。 集中力の高い演奏に聴き惚れてしまいました。 最初からこんな凄い演奏を聴いていいのって(失礼ながら)思ってしまいました。 
開始はとても柔らかく始まりました。 穏やかなホルンの響きのあとトランペットもちょっと甘味のある音、ヴァイオリンの響きが凛としてとても綺麗です。 ゆったりと進めていくんですが、凝縮された音楽のように感じます。 そして全奏による強烈な和音のあとタイトでエネルギッシュな音楽が繰り出されてきました。 それはスピードをどんどん上げていくんですが、奈良フィル全体が一丸となり、強い音を余裕を持って鳴らしているって感じ。 絶叫調ではありませんね。 失礼ながら、奈良フィルがこんなに充実した強い響きを出すとは、しかも1曲目から、なんて思ってしまいました。 ホルンの響きが入って音楽はまた静けさを取り戻し、今度はぐっとテンポを落とします。 クラリネットの柔らかい響き、弦楽器がその旋律を受け取っていくあたりの美しさは奈良フィルらしいところでしょう。 このあたりから、しばし聞き惚れてしまって、あまり細かなことは憶えていません。 とにかく緩急を自在につけて、エネルギッシュに音楽を進めていって幕となりました。 メリハリが効いて集中力の高いオベロン序曲、ほんと素晴らしい演奏でした。

開場の照明がちょっと落ち、ピアノを中央に移動させてます。 第2曲目は、大江章子さんのピアノによるショパンのピアノ協奏曲第2番。 この曲、美味しいメロディはみなピアノが持っていってしまうのですけど、ピアノは端正な演奏に終始していたようです。 几帳面な感じがしました。 しかし阪さんのリードするオケは濃淡をつけた伴奏が元気でしたね。 もうちょっとピアノが歌い込んでくれたら・・・なんて思いました。 もっとも最近僕はこの曲を往年のピアニスト、ウニンスキーのレコードでしか聴いていないので、そんな風に聞こえてしまったのかもしれませんけれどね。
第1楽章、ゆるやかなヴァイオリンによる主題呈示のあとエネルギッシュに盛り上げていったのは先のオベロンとよく似ています。 ややテンポは速目でしょう。 コントラバスの響きが芯になって小気味良く進んでゆきました。 曲が静まると、ピアノ独奏が決然と入ってきました。 粒立ちの良い音ですね。 ピアノもやや早目の展開でしょうか、淡々と進めているような感じがしました。 フル・オーケストラによるクライマックスは力強く、存在感にある音楽になってましたね。 このあたりから展開部でしょうか、ピアノとオケによって主題が展開されていくのですが、オケばかり聞いてました。 再現部となって、ピアノの自己主張も感じられるようになりましたが、それでもそんなに激しいものではなく、間とか表情付けがもうちょっと欲しい気がしました。 オケは相変わらず元気よく、強い和音でこの楽章を閉じました。
第2楽章は、ゆったりとしたオケによる開始のあとピアノがしっとりと語りかけるような感じでした。 オケは演奏に濃淡をつけているんですが、ここでもピアノは淡々とした感じに聞こえました。 もっと大きく歌い込んでもいいんじゃないかなーなんて思ったんですが、このあたりウニンスキーの聴きすぎかもしれませんね。 特にこの楽章の終わるちょっと前にあるピアノとファゴットと絡むあたり、ここ好きなんですけどね、もっとロマンティックにやって欲しかったな。 このあたりはもう完全に個人的な趣味なんで、違う感想を持たれた人も多いと思います。 
曲が静かになったあとアタッカで第3楽章に突入。 哀調を帯びたピアノ独奏に、相変わらず元気にいいオケが絡みます。 マズルカ風のリズムにもピアノは小細工しないっていうのかな、もうちょっとテンポを揺らすとか、歌い込むってことがあってもいいかなぁーって思ったんですが、とにかく端正な感じで曲を進めていきました。 第1主題が戻ってきて曲が進行したあと、ホルンが渋い響きのファンファーレを吹いて終結部、ピアノの技巧的なパッセージも几帳面な感じで纏めてオケの和音とともに曲を閉じました。 

20分間の休憩を挟んで、いよいよメインのドヴォルザークの交響曲第8番。 こちらの演奏は、ダイナミクスの大きな躍動感のある音楽でした。 それに加え、瑞々しさ、豊穣感、詩情など繊細な表現も奈良フィルから次々と引き出し、この曲の素晴らしさ面白さを改めて堪能させてもらいました。 それはもちろん奈良フィルメンバーの皆さんが、阪さんの指揮に実によく応えていたからでしょう。 いつもながら響きの美しい木管は当然として、艶が乗って力強い金管、リズム感よく要所を締め上げたティムパニ、そして今回特筆すべきはオーケストラの基本である弦楽器。 これが雄弁であったから、オーケストラ全体としても高いレベルでの演奏になったことは間違いありません。 とにかく切れの良い阪さんの指揮ぶりからは、ひとつひとつの音やフレーズに対する拘りや厳しさが感じられました。 素晴らしい演奏を聴いた。 もうそれだけで充分だと思いました。
で終わってしまってはナニなんで、頑張って演奏をふりかえってみたいと思います。

第1楽章は、チェロの豊かな響き、流れるような旋律で始まりました。 そうそう今回の演奏会では、チェロのトップに大阪シンフォニカーによく出ておられる野村さんが座り、いつもながらの陶酔された弾きぶりを見せてくださいました。 フルートによる主要旋律は綺麗に響き、その末尾がピッコロに渡されて持続しているなか足早なパッセージが被ってきてクライマックスが築かれますが、もうここから躍動感に溢れてて痺れました。 綺麗な音楽なのに強靭、流麗なのに凝縮された音楽、ほんと見事です。 クライマックスが去って、柔らかな木管楽器と弦が絡みあったあと、弦楽器に緊張が高まってまたクライマックスへ。 潔く弦を鳴らしています。 奈良フィルの弦楽器がこんなにも力強く、しかも雄弁な音楽を奏でているのはちょっと無かったんじゃないかな、なんて思いながら聴いていました。 再現部のクライマックスもエネルギッシュでした。 汲めども尽きない音楽が溢れ出てきたいる感じさせしました。 フィナーレのトロンボーンの響きにも艶がありましたね。 最後は阪さんが高々と右手を挙げて音を切りました。

第2楽章の前、コンマスの八軒さんが一人でチューニングして音を合わせていました(ソロがあるからでしょう)。 阪さんは指揮棒を持った手を大きくまわし、雄大な感じに曲を始めると、すっと退いて抑揚をつけました。 いきなり心を鷲掴みですね。 フルート、クラリネットいつもながら柔らかく綺麗な響きが素適です。 あとヴィオラの響きも良かったなぁ。 木管楽器が新しい旋律を導きますと、その後ろでは弦楽器が綺麗に寄り添い、八軒さんへの独奏に渡します。 清潔な感じのする綺麗なソロでした。 クライマックスになりトランペットが高らかに入ってティムパニがタイトに鳴りますが、主導権は弦楽器がしっかりと握ったままですね。 このあとも弦楽器が緊張感を高めたり、すっと退いて空気を変え、そしてまた次のクライマックスへと潔く音楽を展開させていきました。 最後も爽やかに締めくくりました。

第3楽章、まろやかな響きによるワルツが始まりました。 このような綺麗な響きは奈良フィルらしいところでしょう。 田中さんによるティムパニ、後ろで何気なく叩いているですが、響きに色をつけていてほんと心地よく伝わってきますね。 流れるようなメロディには憂いが漂い出てきましたが、それに溺れるようなところなどなく、メリハリを効かせた音楽がほんと見事ですね。 エンディングは瑞々しい弦楽器、高らかに鳴る金管で奏でられたあと、穏やかな木管で静かに曲を締めくくりました。

そしてそのままアタッカで終楽章。 煌びやかなトランペットのファンファーレがホールに響くと、チェロによる主題がちょっと間をとった感じで奏でられます。 豊穣な響きが素適ですね。 リズミカルに変奏したあとスパッと切って急速な舞曲に。 ここでも潔い曲運びに感嘆しました。 とにかく阪さん、基本的には縦ノリのリズムでしょう。 左手もよく上から下に切るような動作をするんですが、歌わせる部分では本当にたっぷりと歌わせていますね。 そして歌わせたあとスパっと切るときの潔さが快感に結びついているのかもしれません。 見事にコントロールされた音楽が、続々と繰り出されてきます。 音量も大きいし、熱っぽい音楽なんですけどね、指揮者が身体全体で表現してオケから搾り出しているって感じじゃないんですね。 とにかく一つ一つの動作に自信が漲っているように感じるのは、今が上り調子だからでしょうか。 もうこうなると細かなことはやっぱり気にせず、ひたすら音楽をおいかけて聴くだけになってしまいます。 フィナーレでは更に一段を音量を上げて(こんな大きくて綺麗な音、奈良フィルで聴いたの始めてじゃないかしら)急速なコーダとして、縦ノリのリズムから最後は真下に指揮棒を振り下ろして曲を閉めました。

凄い演奏に、会場からの拍手も凄いものでした。 そして何より、阪さんが舞台の袖に下がられたとき、会場からちょっとしたどよめきが涌いていました。 一緒に来られた人同志が、凄かったね、なんて一斉に囁きあっていたからのようです(少なくとも僕の回りではそんな感じでした)。 素晴らしい演奏。 この言葉に尽きます。