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京都大学交響楽団 第175回定期演奏会

打てば響く巧い京大オケ健在戻る


京都大学交響楽団 第175回定期演奏会
2004年6月24日(木) 19:00 尼崎アルカイックホール

ベートーヴェン: 「エグモント」序曲
ラフマニノフ: ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18
フランク: 交響曲 ニ短調

独奏: エピファニオ・コミス(p)

指揮: 曽我大介


曽我大介さんの指揮のもと、打てば響くがごとく、京大オケらしい強靭さを感じさせた演奏会でした。 曽我さんはいつもどおり、オーソドックスで構成感を崩すことのないストレートな音楽作り。 このすさまじく反応の速いオケから若々しくフレッシュな音楽を引き出していました。 
よく締まった弦楽器と、響きの軟らかい管楽器による対比が見事だったエグモント序曲。 オケの深い響きに独特な色も感じさせたフランクの交響曲ニ短調など、いずれも素晴らしい演奏でした。 ただ、ここまで巧いオケですから、さらに一歩、こなれた音楽の綾なども欲しいと感じてしまったのはまったく欲張りというものでしょうね。 しかしそんなことにも要求が及んでしまう演奏会でした。 
あと、ラフマニノフのピアノ協奏曲ではソリストの問題が大きかったと思いますけれど、指揮者にももっと違ったアプローチもあったのではないか、と感じる部分がありました。 まぁこのあたりはオケとは関係ない部分ですし、先のこなれた音楽への欲求も含め、土曜日の京都公演では見事にクリアしていたのではないかな、と思います。 
とにかく巧い京大オケ健在でした。


簡単に演奏会をふりかえってみたいと思います。

夜から雨の予報。 土曜夜の京都公演に行こうか、と何度も思いましたけど、仕事を切り上げることができ、行けるときに行っておこう、と考え直して尼崎公演に足を運びました。
とは言うものの、昼からお客さんのところに行って散々喋って帰ってきたあとだったし、甲子園球場での野球の試合のために電車は満員。 尼崎駅に着いた時点ですでに身体はずいぶんと疲れていました。 鉛色の空を見上げ、やっぱ土曜日にしたほうが良かったかな〜 なんて正直思いつつアルカイックに続く陸橋を歩いてゆきました。

ホール入り口ではいつもながら礼儀正しい学生さんたちの誘導があります。 この人達みな京大生やな〜って思うだけでどこかしら劣等感みたいなものを感じるのは我ながら困ったものですね。 とにかく当日券でA席を購入(S席じゃなくすみません)。 しかし座席は1階席の22列の39番。 ホールのやや右側ですけど、中央列に近いところですね。 見上げると、2階席の屋根のかかる手前あたり。 なかなかいい席でした。 ホールに入るとさっそくトイレに直行。 この後ロビーで持参したお茶を飲んで水分補給も完了。 疲れたときには水分補給ですね、とにかくこれで準備万端。 座席に座って演奏開始を待ちました。

定刻、関係者によると儀式ともいわれる、音楽部長の先生のご挨拶。 いつもどおり戦争中から1回も途切れることのない演奏会であること。 今回の指揮者とソリストの紹介と、学生たちはこの先生たちをとても気に入っている・・・って毎回言ってますよね。 しかし今回は5分で終了。 かなり早く終わったほうじゃぁないでしょうか。 このあとオケのメンバーが登場し、チューニングのあと、曽我さんがゆっくりと歩いて登場(楽屋からの扉に足をひっかけたようですけど、全く動じたことなく登場)しました。

エグモント序曲。 とにかく巧い京大オケらしさを感じさせた演奏でした。 開始から、よく締まった弦の響き、凛とした木管楽器、そしてより強靭さを伴って弦楽器が戻ってきます。 この集中力の高さ、京大オケらしい音楽ですね。 曽我さんは、細かく動きながら響きを整えています。 バランス感覚に優れているのが曽我さんの持ち味の一つだと思っていますが、オケもよくそれに応えていて、ぎゅっと締まって反応の速い弦楽器、響きが軟らかくゆったりとした管楽器の対比が見事でした。 きちんとした音楽といえばいいのかな、悪い意味じゃなくよく整った音楽が展開してゆきました。 女性4名によるホルンの斉奏もタイトで素晴らしかったですね。 そしていったん音楽が静かになったあと、じわじわっと盛り上げていった勝利のフィナーレ。 ここでも見事に統率された音楽で熱演を形成し、若々しくフレッシュなエンディングとなって開放されました。 見事な演奏にスカッとしました。

舞台は暗転、ピアノを出してラフマニノフのピアノ協奏曲第2番です。 ソリストは、エピファニオ・コミスさん。 どこかで聴いたような、と思っていたんですけど、パンフレットを見て思い出しました。 大阪シンフォニカーの会員だった頃、定期演奏会で同じくラフマニノフのピアノ協奏曲第3番を曽我さんの指揮で聴いてました。 そのときの印象では、力でぐいぐいと押すタイプではなく、叙情的なピアニストです。 第2楽章が良かったという記憶が蘇ってきました。 また音楽部長の先生のお話では、エピファニオ・コミスさん、指揮者の曽我さんの紹介による共演とのことでした。 

しかし、結果的にこの尼崎公演では、残念ながらソリストと指揮者がかみ合っておらず、正直がっかりしてしまったことを告白しなくてはなりません。 もっともオケは指揮者の要求どおり、とても巧い演奏で指揮に応えていましたし、この演奏についてはオケの責任は全くないと思います(かえってオケは被害者のように思えてくるほどです)。

とにかくソリストのコミスさん、マイペースすぎました。 後ろに座っていた学生さん達は、演奏終了後「(ピアニストは)明らかに練習不足」「オケが可哀想」と口々に嘆いてました。 確かに、過去の印象からして力任せに弾くタイプではないのは分かっていますけど、オケの全奏では響きがまったく聴こえなくなってしまいます。 しかも速いパッセージでは指が回っていないように感じた個所もありました。 僕には練習不足かどうかは判断できませんけど、オケのことを気にすることなく(協奏曲のソリストですからオケが併せるものなんでしょうけど)ひたすら自分のペースで淡々と弾いてました。 それでもナイーブで巧いなぁと思えたならまだしも、少々疑問を感じさせた演奏内容では納得できるものはありませんでした。

あと曽我さんもいけないのではないでしょうか。 コミスさんとの初共演ならまだしも、バリバリと弾くタイプではないのは知っていると思われるのに、ぐぃぐぃとオケを盛り上げてソリストとの隙間を感じさせたのはいかがなものでしょうか。 後半にはソリストを意識し、出の部分を合わせるような指示を出す注意を払っていましたけど(その動作はソリストがセミプロ級の扱いみたいに思えましたけど)、やはり盛り上がる部分はストレートに盛り上げていたのは相変わらず。 オケの響きの切れが良いため、結果的にそんな盛り上がり方になってしまったのかもしれませんけど、ソリストとの隙間を埋めるような演奏上の配慮はあまり感じませんでした。 もっと違うアプローチがあったのではないでしょうかね。 とにかく納得いかない演奏内容でした。 何度もいいますけど、これはオケの責任ではないと考えています。

第1楽章、柔らかくしなやかで、しだいに力を増していったピアノに、低弦のピチカートを強調したオケの伴奏が付きました。 エグモント序曲では、ちょっとこじんまり纏まっていたようにも感じましたけど、大きくたっぷりとしたロマン派の演奏ですね。 もちろん歯切れの良さは相変わらず健在です。 オケは指揮者の指示に従い、音楽を見事に料理しながら進んでゆきます。 ピアノの響きは繊細で柔らかいのが特徴的。 けっして力任せになることなく、淡々とこなしているようです。 金管ファンファーレはやや突出した感じに響かせて、きらびやかな感じをよく出していましたけど、ピアノはまったく自分の世界のまま。 オケが全奏になってしまうとほとんどピアノの響きが届いてきません。 ソロとオケに隙間があって、なんかおかしいなぁ、と思いながら聴き進んでゆきました。 でもオケのホルン・ソロは伸びやかで巧かったですし、このあとオケはまた力強くなり、響きを横に拡散させるようなエンディングでこの楽章を終えました。

第2楽章、おごそかな感じのする開始でした。 ピアノは控えめな感じ。 しみじみと演奏していましたけど、抑揚があまり感じられません。 音色や肌触りはいいんですけどね、淡々とやっている感じのままです。 しかしここでもオケのソロはいずれも良かったですよ。 フルートやクラリネットなど懐かしさを充分に感じさせ、唸らされました。 中間部、曲調が変わってオケに元気さがみなぎってきます。 パンと弾けるような響き、一糸乱れない演奏が展開されてゆくんですけど、ピアノは相変わらず。 出の線こそ合っていますけど(指揮者が合わせていますけど)、ソロとオケの隙間がどんどん広がってゆく感じ。 オケは指揮どおりに煽られてストレートに盛りあがるんですけどね・・・ なんかこんなのずぅと聴いていたら退屈になってきました。 戸惑うよりも、何やってんだろって感じですね。

ピアノの響きが消えないうちに第3楽章へはアタッカで入ります。 ここでも打てば響くように、オケは見事に反応するんですけど、ピアノは必要以上に音量を上げません。 第1楽章の冒頭と同じように低弦のピチカートを強調した音楽は、タイトな響きで曲を進めます。 曽我さんは、ここまでくるとコミスさんのほうを向いて、出の指示を出していました。 アマじゃあるまいし、出が分からないことはないと思いますけど、多分、もっと元気よくやって欲しいという意思があったのだと思います。 けど、コミスさんは無反応。 縦の線こそ揃って始まりますけど、音楽は乖離したまま。 しかもピアノの速いパッセージでは、オケの響きに掻き消されそうでしたけど、端折ったように聴こえた部分もありましたね。 これではついてこれないと思われても仕方ないですね。 かといって情緒的で深い思いが感じられるかというとそうでもありませんしね。 困ったものです。 ここでもオケは指揮どおり、グンと盛り上がっては、すっと退いたり、スパっと切ったり。 本当に反応のいいオケを楽しむことにしました。 しかし、曽我さん、今回初対面ではないのだから、もっと違ったアプローチもあったんではないでしょうか。 オケが元気になるたびにそんなことを思ってましたけど、大きなフィナーレとなり、ゆったりとこの曲を終えました。 やっと終わった、って感じで、なんだかオケが可哀想に思えた演奏でした。

休憩をはさんでメインのフランクの交響曲ニ短調。 こちらは深く張りのあるオケの響きには独特な色も感じさせた演奏でした。 本当によく練習を積んでいるのでしょうね。 合奏もソロも本当に見事で、沈痛な深い表情の冒頭から、ストレートに盛り上がったあとの潔い幕切れまで存分に演奏を楽しませてもらいました。

第1楽章、深く張りのある厳かな低弦の和音。 もうここから成功は決まっていたようですね。 重く短いティムパニの連打からじわじわっと盛り上がったクライマックスのあと、冒頭のテーマがリズミカルに演奏されます。 歯切れ良くっていいですね。 トランペット5本による金管ファンファーレも輝かしいし、トロンボーン、チューバもよくノッていました。 とにかく皆さんよく練習を積まれているのでしょう、このあともホルンのソロ、オーボエやフルートのソロなど、いずれも見事な抑揚がついていて聴かせ上手です。 多少長さを感じる曲なのですけどね、ほんと巧い。 終結部もリズミカルに盛り上がってノってから、曽我さんが両手を左右に広げてスパっとした音切れの良さ。 その響きが消えたあとも曽我さんはしばらく両手を広げた姿勢のまま、客席もじっとそれを見ていたのも印象を深くするのにとても良かったのではないでしょうか。

第2楽章、冒頭のピチカートが、素晴らしい、の一言。 深く柔らかい響きが一糸乱れません。 そして、このあとのコールアングレのソロもエキゾチックで優美さがとても素敵でした。 この旋律がホルンとクラリネットのユニゾンに受け継がれたあと、ヴィオラによる憂色の響きで奏された主題も、これまたとても素晴らしいものでした。 次から次へとこの調子。 ソロ、合奏ともに本当に巧いですね。 たっぷりとこの曲を味あわせてもらいました。 この楽章の後半、曽我さんは曲を緻密に進めていたようです。 オケもよく反応し、ぎゅっと引き締まって透明感の高い演奏でこれに応えていました。 そして静かにこの楽章を閉じました。

アタッカで入った第3楽章は、内包する力を感じさせた演奏で始まりました。 チェロとファゴットによる主題の提示もパンと張ったような感じ、高音弦がそれを引き継いだあとのトランペットはちょっと固めの音色だったかしら。 力を蓄えた小さなクライマックスを形成したあと、コールアングレがここでもエキゾチックに響きます。 そしてフルートの旋律も綺麗でしたね。 さて、トランペットが5本加わってのクライマックスを迎えたあと、ゆったりと大きく潮が退いてゆきます。 休符のあとテンポを落とし、不安な雰囲気も漂わせますけど、しだいにまた力を増してゆき、スピード・アップ。 このあたりの反応の良さ、何度も書きますけど、本当に見事ですね。 ティムパニがタイトで重い響き、ゆったりとした金管ファンファーレも加わって独特の色を感じます。 オルガン・サウンドかしら。 そして、これまで出てきた主題が入り混じって回想されますけど、ここまでくると少々トリップしたみたいになって聴き惚れていました。 最後のクライマックスは、ストレートに盛り上げてから潔いフィナーレで幕。 あ、終わった、っていう感じのとても気持ちのいいエンディングでした。 

曽我さんはいつもどおり、オーソドックスで構成感を崩すことのないストレートな音楽作りをしていて、このすさまじく反応の速いオケから若々しくフレッシュな音楽を見事に引き出していました。  ただし、ここまで巧いオケですからね、さらに一歩、こなれた音楽の綾なども欲しいと感じてしまったのはまったく欲張りというものでしょう。 しかしそんなことにも要求が及んでしまった演奏会でした。 
とにかく京大オケ健在ですね。