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奈良交響楽団 第46回定期演奏会

息もつかせぬ演奏、気迫の交響曲戻る


奈良交響楽団 第46回定期演奏会
2004年12月26日(日) 13:30  奈良県文化会館国際ホール

ベートーヴェン: 劇音楽「エグモント」序曲 op.84
グノー: 歌劇「ファウスト」からバレエ音楽
     1.ヌビア人の踊り
     2.クレオパトラと金の杯
     3.ヌビア人奴隷の踊り
     4.クレオパトラと奴隷たちの踊り
     5.トロイの娘たちの踊り
     6.鏡の踊り
     7.フリネの踊り
プロコフィエフ: 交響曲第5番 変ロ長調 op.100

(アンコール)プロコフィエフ:バレエ曲「シンデレラ」より序奏

指揮:高谷光信


プロコフィエフの交響曲第5番、息もつかせぬほどに気迫のこもった演奏でした。 耳馴染みの少ない曲なので、CDやLPで予習をしていましたけれど・・・実演で聴く方が遥かに素晴らしく(予習しすぎると変なイメージがついて実演では違和感を覚えることが多くのあるのですけど、まったく杞憂で)、演奏の中にぐいぐいと惹き込まれてゆきました。
今回もまた2階席からオケを見ながら聴いていました。 この位置からだとオケの動きが手に取るようにわかります。 そして今回、予習の時には気付かなかった響きの綾や、それを導き出している楽器の種類など、なるほどこんなことをやっていたんだ・・・と大変勉強にもなりました。 もちろん、そのような勉強などしなくて、ただ聴いて見ているだけでも、生演奏での醍醐味や面白さが客席にビンビンと伝わってきた演奏でした。 とにかく演奏内容がとても充実していたと思います。 集中力が高く、迫力も満点、しかも余裕を感じさせ、オケが鳴りきっていても安定感を失うことはなかったことなど・・・色々と思い当たる点はあるのですけれど、一緒に来たうちの子供たちを見れば一目瞭然。 日頃は演奏会に行くのを嫌がる小学生の長男を含め、この難しい曲、しかも初めて聞く曲であるのに身をのりだすようにして聴き、演奏終了後には興奮気味に大きな拍手を贈っていたことからも証明されると思います。 とても素晴らしい演奏でした。
なおこれに先立って演奏されたエグモント序曲も、ゆったりとしてテンポ設定から、骨組みのしっかりした演奏で充実していましたし、グノーの「ファウスト」からバレエ音楽をピックアップした演奏も流麗ながら端正に纏めて見事でした。
でもこのプロコフィエフの交響曲第5番の演奏の前ではいずれも霞んでしまったようです。 今年最後の演奏会に相応しい、いや予想を遥かに凌駕した演奏会に満足して会場を後にしました。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

ちょっと家庭内でトラブル発生。 家を出るのが遅くなりました。 しかも西大寺駅の手前で電車が止まって動かない(よくあることですけどイライラします)。 駅から早足で開演数分前にホールに到着。 
ロビーには既に人がほとんどいません。 脱兎のごとく階段を駆け上がって2階席へ。 ホール内の暖房が効きすぎているのと、焦っているために、気分も少々悪い感じ。 長女がウォータークーラーを見つけて一息ついたので、ドアのところで立ち止まり、長男にも水を飲ませてしばし呼吸を整えます。 ふぅ、ここまでくればもう焦ることはないはずなのだと自分にも言い聞かせます。

子供達も好きな最前列の席が・・・と思って見たら、右ブロックにありました。 AA-46 から並んで座ります。 暑いのでジャケットを脱ぎ、子供達は時間を気にしながらトイレへと駆け出して行きました。 しばらくするとオケの皆さんが整列入場。 弦楽器の編成が 7-8-5-7-5 というちょっと変わった編成ではないかしら。 なんて数えていると子供達も帰ってきました。 こちらも準備OK。 
ところで1階席には9割近いお客さんが入っているようです。 主催者側は年末に近いために集客を心配してらしたようですけど、これだけ入れば全く問題なしでしょう。
ゆっくりと歩いて指揮者の高谷さんの登場。 

エグモント序曲、終始ゆったりとしてテンポ設定で落ち着いて決して走らず、構成感をしっかりと持った演奏でした。 フィナーレは開放的となり艶やかな響きでオケを鳴らしたエンディングも見事でした。

指揮台の上で集中力を高めてから、さっと上に振り上げてすっと落として弦の豊かな和音が飛び出して始まります。 低弦の数が多いのですけど、ゴツゴツした感じはなく、まろやかな感じの響きです。 テンポ設定はちょっと遅めでしょう。 ゆったりと進めてゆきます。 オーボエとクラリネットの響きがやや慎重な感じながらじんわりとした味わいがあります。 クライマックスにきてもティムパニが重い音でぐっと盛り上げますけど、決して走らず落ち着いて堂々とした感じ。 でも軽量級の響きではあります。 
高谷さんの棒さばきは、実にしなやかです。 オケもそれに合わせて厳つい感じはまるでなし。 響きがきちんと整理されているようです。 ホルンが高らかに吹き(見事)、弦との掛け合いでぐっと盛り上げたあと、すっと退くあたりも安定感あります。 
そしてここからのフィナーレはこれまでとは違い、響きに開放感が出てきました。 艶のある明るい弦の響きでオケを鳴らします。 トランペットは渋い響き、ホルンはタイトに力強く、ティムパニは落ち着いた打音でぐっと盛り上げ、最後は両手を真下に振り下ろして幕。
オーソドックスながら充実した演奏でした。

管楽器と打楽器のメンバーが増強され、グノーの歌劇「ファウスト」からバレエ音楽を7曲演奏。 いずれも流麗ながら端正に纏めた音楽でした。 ここでもしなやかな高谷さんの棒の威力が発揮。 いずれも華美な要素をうまく抑制し、優雅で余裕を感じさせる音楽としていました。 弾力を感じさせるリズムでぐいぐいと盛り上げたあと、袈裟懸けのようにスパっ切り落としたのも印象的でした。

1曲目「ヌビア人の踊り」、高谷さんの手が大きく円を描いて柔らかなファンファーレのあと流れるような弦の響き。 落ち着いた音楽が進んでゆきます。 柔らかい中音弦に、しっとりとした管楽器が上品でした。

2曲目「クレオパトラと金の杯」、甘い金管の響きに、ハープが爽やかに呼応すると、今度は力強く金管が応えかえします。 でもこの後はじんわりとした感じの弦の響き。 木管が明るく入ってきますけど、全体としてしみじみとした感じだったかな。

3曲目「ヌビア人奴隷の踊り」、威勢良く始まります。 木管アンサンブル、特にピッコロの響きに艶があってよかったな。 段々と力もこもってきますけど、オケもよく揃っていました。

4曲目「クレオパトラと奴隷たちの踊り」、高谷さんの左腕で下から上に振り上げあられ、波打つような感じです。 チャーミングな木管、甘い響きのトランペット、豊穣さを感じる音楽にオケもよく奮闘していました。

5曲目「トロイの娘たちの踊り」、流れるような弦楽器にハープが入って優雅さがあります。 瑞々しいヴァイオリンの響きも素晴らしいけれど、中低弦のふくよかなピチカートも素適でした。

6曲目「鏡の踊り」、艶やかな弦楽アンサンブルのあと愛らしく弾むようなヴァイオリンが素適。 管楽器も柔らかい響きで全体によくマッチしています。 元の旋律に戻って、裏でフルートとファゴットが吹いているのに気付きました。 ちょっとスピード上げて終了。

7曲目「フリネの踊り」、弾力のある音楽が始まります。 柔らかい響きなのに芯を感じさせています。 余裕をもった巧さでしょうか。 トランペットが爽やかに吹いて、弦の優しいメロディが歌います。 この流れるような旋律が次第に熱気を帯びてきたあと、冒頭の弾力ある音楽へ。 タイトでリズム感よくぐいぐいと進めたあと、両手で持った指揮棒を右上から袈裟懸けでもするように左下に音楽を切って落としました。 
いずれも華美な要素をうまく抑制して充足感を感じさせた演奏でした。

20分間の休憩だったかな。 ようやく落ち着いてパンフレットや同封されているEtudeを読みます。 今回のEtudeはプロコフィエフの特集。 いつもながら初心者にも興味を持たせる内容がいい感じです。
定刻、オケのメンバーが出てきます。 弦楽器が 10-10-7-8-6 に拡大されているようです。 コンサートミストレスのチューニングのあと、ゆったりと歩いて指揮者の高谷さんが登場していよいよ始まります。

第1楽章、フルートとファゴットがちょっと明るい感じで親しみ易い旋律をゆったりと吹きます。 弦楽器も加わってゆったりと主題を奏でてゆきます。 低弦が時折唸るように聴こえてくるのにゾクッとする快感を覚えます。 これはいい演奏になる、そう直感しました。 じっくりと曲を進めてゆき、リズム感よく強靭な感じで盛り上がってはすっと退く。 よく練り込まれた音楽といった感じです。 
高谷さんのハナ息が入って、シンバルをバチで叩いてグィグィと盛り上がります。 トラッペットが煌びやか。 ここでも低弦が芯になっているせいでしょう、勢い込むようなことなく安定感があります。 力強い大太鼓、ピアノの響きなど、生演奏の醍醐味を感じながら聴いていました。 ホルンが旋律を力強く吹いて、壮麗なエンディングへと結びつきます。 押し退き、ともにメリハリがきちんとついていて、本当に素晴らしい演奏でした。 終わった時には思わず拍手をしたくなっていました。

第2楽章、艶やかなヴァイオリンとクラリネットによるスケルツォの開始。 ピアノの深い響きも印象的です。 スネアがタイトに打って、弦・管・打と見事に響き合った音楽が駆けてゆき、思わず身を乗り出すようにして聴いていました。 勇ましい打楽器も見事ですけど、弦の分奏もまたよく整っています。 そしてピアノが要所要所でこんなにも入っているなんて・・・CDやLPでは気付きませんでした。 やはり生で聴くと勉強になります。
中間部、木管アンサンブルが緊密に鳴り、透明感のあるヴァイオリンでしばしの安息も自然にまた音楽が熱気を帯びてゆきます。 とても自然で流れるようにクライマックスを築きます。 タムタム、スネア、タンバリンなど実にタイミング良くて効果的で、ワクワクとします。 そしてトランペットも大活躍で、唸るような渋い響きだったり、ミュートして輝くような響きも見事でした。
冒頭の旋律に戻り、高谷さん、体操という言葉には良い印象はないのですけど、でも見るからに体操をやっているみたいに的確に指示を出し、見事な手さばきで響きを整理。 有無を言わせない感じでぐいぐいと曲を進め、最後は右から左上に投げるような感じで終わりました。

第3楽章、うごめくような弦の響きに低弦がからんできます。 木管楽器の響きもしみじみとした感じ。 オーボエが物悲しい響きで歌います。 この楽章、CDやLPで聴いていると茫洋した感じに思えて馴染めなかったのですけど、この演奏では腰の据わった音楽として惹き込まれます。 しだいに力を増してくると、ここでもピアノが効果的に使われているのを発見。 低音金管楽器や、低弦の響きなどとても充実した音楽なのにも気付きました。 トランペットが艶やかな響きが見事、哀しみを伝えたみたい。 ゆったりと大きな歩みをもって音楽を進めてゆきました。
力がこもってきて、高谷さんが大きく振り、銅鑼が鳴って盛り上げたあと、また透明感を感じさせるヴァイオリンでじっくりとした音楽として進みます。 ピン! と弦でも切れたような音を感じましたけど、何事もなかったかのように曲が進みます(何かな)。 最後は弦のトレモロにクラリネットの響きが入って、そっと曲を閉じました。 

第4楽章、ホルンの柔らかい響き、木管楽器、弦楽器と優しい音楽が進行する導入部。 するとヴァイオリンが第1楽章の主題を少々ぎこちなく感じさせながら再現します。 ヴィオラが旋律を奏でると曲調が変わって主題の提示。 軽快です。 クラリネットの豊かな響き、流れるように曲が進みます。 クラリネットとフルートがいい味を出して健闘していました。 もちろんこの裏でのホルンのトレモロもとても見事。
中低弦が弾いた旋律をヴァイオリンが引き取ったあと打楽器が入って音楽が活気付きます。 低音金管楽器がコクのある響きを出しています。 クラリネットが冒頭の旋律を歌うように吹きますと明るくなります。 弦楽器もよく揃って、管楽器との掛け合いも見事に決めてながら速度をあげてゆきます。 この楽章、ちょっと大人しい感じだなと思っていたのですけど、ミュートしたトランペットが入るあたりから覇気も強く感じられるようになりました。 でも闇雲に駆け出すようなことはなく、落ち着いた響きの柔らかいティムパニが全体を締めているようです。 でも曲はどんどん速くなってゆき輝かしいコーダ。 それを分け入るように弦楽器のトップ奏者による気迫の篭ったアンサンブル(こんなのがあったのも始めて気付きました)でオケを凝視していると、高谷さんが打楽器のほうを向いて気合を入れ、すくい上げるようにして全曲を閉じました。 最後は本当に息もつかせぬような感じで畳掛けるようなエンディングでした。

あまりに唐突な終了だったからか、曲を知らない人も多かったせいか、熱演だったのに拍手がパラパラっとした感じ。 2階席から大きな拍手を贈らせていただきました。 ようやくホール内が熱い拍手で包まれ、その拍手が鳴り止むことはありませんでした。
アンコールはプロコフィエフのバレエ曲「シンデレラ」より序奏。 でもこれだけの大熱演のあとではどのような演奏も霞んでしまうです。 かえってアンコールなしでも良かったのかもしれません。 それほどまでにメイン・プログラムが素晴らしく充実した演奏でした。 今年最後の演奏会に相応しい、いや予想を遥かに凌駕した演奏会に満足して会場を後にしました。