BQクラシックス My Best Quality Classical Music Site 〜 堅苦しいと思われがちなクラシック音楽を、廉価盤レコード(LP)、CD、アマチュアオーケストラ(ブログ「アマオケ大好き、クラシック大好き」)などで気軽に楽しんでいます。
TOP演奏会感想文廉価LPコンサートホールLP廉価CD資料室掲示板
ならチェンバーアンサンブル 第69回定期演奏会

夏のセレナーデづくしを満喫戻る


ならチェンバーアンサンブル 第69回定期演奏会
2005年6月18日(土) 14:00  学園前ホール

モーツァルト: セレナーデ第13番ト長調K.525「アイネ・クライネ・ナハト・ムジーク」
ボロディン: 弦楽四重奏曲第2番 第3楽章「ノクターン」
ドビュッシー: 月の光、花火 <p>
バルトーク:蚊の踊り(「2つのヴァイオリンのための44の二重奏曲」より)<Vn-1,2>
ポッパー:セレナード 作品54-2 <Vc,p>
サン=サーンス: ピアノ三重奏曲第1番ヘ長調 作品18 <Vn-1,Vc,p>

(アンコール)シューベルト: セレナーデ <Vn-1,Vc,p>

演奏:五十嵐由紀子(Vn-1)
   海田仁美(Vn-2)
   植田延江(Va)
   斎藤建寛(Vc)
   山田剛史(p)


「夏のセレナーデ」と題された演奏会、アンコールもシューベルトのセレナーデ、爽やかなセレナーデづくしの演奏会を楽しみました。 
クラシック音楽をよく聴いていても、実際に室内楽を楽しむ機会がほとんどありませんので、ならチェンバーアンサンブルの演奏会は本当に楽しみにしています。 今回もそんな期待を裏切らない、凛として清潔感のあるアンサンブルを堪能しました。
とくにノクターンと名付けられたボロディンの弦楽四重奏曲第2番第3楽章。 初めて聴く曲でしたけれど、とても素適な曲で好きになりました。 またドビュッシーの「月の光」と「花火」、東京芸大大学院に今年入学された山田さんのピアノがキラメキ感とともに踏み込みも充分、冴え渡っていましたね。 また休憩後にはバルトークの「蚊の踊り」という48秒のご愛嬌ともいえる曲も含め、いずれの曲、いずれの演奏ともに充実した演奏内容に満足しました。
そしてアンコール、五十嵐さんの「感謝の気持ちで、心をこめて演奏します」とのスピーチで演奏されたシューベルトのノクターンのまた素晴らしかったこと。 艶のあるヴァイオリンの響き、そして各自が充分に歌いあった素適な演奏に心洗われました。 とても清々しい気持ちで会場をあとにすることができました。 今回もまたとても素適な演奏会、存分に堪能しました。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

ならチェンバーは、奈良市が市制90周年の1988年に結成した奈良市の室内管弦楽団。 オーケストラ編成と室内アンサンブル編成を交互にして定期演奏会を催し、今回が69回目の演奏会となります。

初めて聴かせてもらったのが2000年6月の第54回定期演奏会。 「英国音楽の花束」と題された演奏会で、今村能さん指揮のオーケストラ編成で、滅多に実演で接することのない英国音楽を堪能させていただきました。 それから途中4回ほど抜けましたが、毎回ならチェンバーを楽しみにしています。 

ところで、ならチェンバーの定期演奏会。 当初は年4回の開催でしたが、財政難のためか、今は年に2回となっています。 しかも今回、これまで無料だった老春手帳を持った年配の方が半額の 500円負担になってしまいました。 このためでしょうか、座席数が少ない学園前ホール(305席)での前回の演奏会は3日間でチケットが完売でしたけど、今回は1週間前でもチケットが入手できたようです。 でも当日はさすがに満席。 定刻を5分ほど過ぎてホールに到着した時点で既にチケットは完売となっていました。

5分ほど過ぎて到着したのに、けっこうお客さんが席についてらっしゃいました。 オーケストラの演奏会では、出来るだけ後ろのほうで全体が見渡せ、しかも音が均質に飛んできそうな座席を選ぶのですけれど、アンサンブルなので出来るだけステージに近い席を探します。 ずんすんと前に歩いていって、中央列の前から3列目、C−8に陣取ることにしました。 4列目のD列から座席位置に傾斜がついているのが魅力的だったのですけど、既に入る余地はありませんでした。

開演までパンフレットや、挟み込まれたチラシを読んで時間を潰します。 パンフレットには財団法人奈良文化振興センターとなら100年会館での公演予告が印刷されていますし、チラシもその関係のものが入っています。 企業努力をしているようですね。 これまでそんなことなかったと思うのですけど、これも危機感の現れでしょうか。 もっと宣伝して、ならチェンバーの演奏会も増やして欲しいものです。

さて、そうこうするうちに定刻。 照明が落ちるとともにステージの下手が明るくなって五十嵐さんが登場してスピーチが始まります。 パンフレットに曲目紹介が書かれていないので、演奏者の方自ら解説してくださるのも嬉しいものです。 五十嵐さんのスピーチで「セレナーデは夜の音楽、これらの音楽が書かれた時代は、今よりも夜を実感していた・・・」というのがあり、この「夜を実感していた」という言葉になんとなく納得してい、演奏への期待もますます高くなりました。

1曲目、弦楽四重奏編成によるモーツァルトのアイネ・クライネ・ナハト・ムジーク。 ひとことで言うなら、真摯なモーツァルト、そんな感じでした。 なかでも第2楽章が艶やかで素適だったと思います。 でもまぁ最初ということもあってか、全体的には少々堅いかなぁ〜 なんていう印象を持ちました。 
そうそう、海田さんがものすごく真剣な表情で五十嵐さんを見つめ、音楽を併せていたのが強く心に残りました。 この海田さん、ストレートヘアに聡明さを表わしている広い額を持った美人なのですけれど、ヴァイオリンを弾きながらジロっと下から見つめる視線のとても鋭いこと。 その真剣な眼差しには鬼気迫るものが感じられるほどで、こちらを見ていないのは分かっていますけど、その眼差しに何度ギクっとしたかしれませんでした。 ほんと真摯な音楽でした。

第1楽章、五十嵐さんのリードでカチッと纏まった開始。 気合入ってました。 五十嵐さんのヴァイオリンの響きが少々堅く、直裁的な響きに聴こえるのは前のほうに座っているからでしょうね。 ビンビンと音が飛んできます。 その旋律を的確に下支えする斎藤さんと植田さん。 五十嵐さんのリードに対して真剣な眼差しで併せる海田さん。 隙間無くきちっとしたモーツァルト、そんな感じがしました。

第2楽章、響きがこなれて艶やかになりました。 潤いを増した五十嵐さんのヴァイオリンが素適です。 海田さんのヴァイオリンもやはり真剣な表情ですが、ぴったりと寄り添って歌ってらっしゃいます。 植田さん、斎藤さんも響きに深みを増して歌ってらして、この楽章が一番好きでしたね。 ふわっとした着地をうまく決めました。

第3楽章のまえにチューニング。 そのこともあってか凛としたアンサンブルに戻りました。 やや鋭角的な表現でしょうか、悪い言い方をするとどことなく型どおり、そんな感じもするんですけどね、やはり真摯な演奏には違いありません。

第4楽章、軽やかな開始から皆さん真剣な表情、ストレートな表現でぐいぐいと曲を進めてゆきました。 ただ、斎藤さんも同じなんですけど、下支えのパートだからでしょうか、独自の境地で淡々と演奏されているようにも見えました。 とにかく皆さんきちっとした演奏ですね。 モーツァルトにしてはちょっと生真面目すぎる、そんな感じもしますけど、これがこのアンサンブルの持ち味といえば持ち味ですから文句などあろうはずもありません。 清潔感のある演奏をしっかりと楽しませていただきました。

今度は斎藤さんが出てこられてスピーチ。 ボロディンのことに加え、ご自身がポーランドに行かれた折に経験された日暮れのことをお話されました。 暮れなずむ藍色の空、その藍色が長時間に渡って空を染めていて、思わず皆が無言になってしまう時間、それがノクターンなのだと教えられたことを紹介されていました。

2曲目のボロディンの弦楽四重奏曲第2番第3楽章「ノクターン」。 そのように紹介された夕闇の時間にとても似合う曲、素晴らしい演奏に心奪われました。 今回初めて聴く曲でしたけど、馴染みのよいメロディが歌いまわされて、とても好きなりました。 ほんと、単純に聴いてよかったなぁ〜と思えた演奏でした。

まず五十嵐さんがうつむいて、斎藤さんの艶やかで朗々と歌うチェロから始まります。 しばしチェロに聞き惚れていたら、今度は五十嵐さんの透明感のあるヴァイオリンに引継がれました。 海田さんと植田さんも加わって大きく歌って盛り上げます。 耳馴染みの良い旋律に気持ちがよくなります。 そして暖かなチェロの響きで旋律がまた歌われ、それを各楽器が歌いまわし、アンサンブルで響かせあってゆきます。 ほんといい曲でした。 もちろんいい演奏だったのでそう思えたのでしょうけど、とにかく聞き惚れっぱなしでした。

前半最後、今度は山田さんが出てこられてドビュッシーのスピーチです。 さすが若いだけあって、声に張りがありますね。 手を見ていると小刻みに震えているんですけどね、堂々とした喋りっぷりです。 揚げ足をとるようですけど、「花火」の説明で「ドビュッシーが50歳を越えておじいさんのころの作品・・・」なんて言われたとき、後ろの年配の女性の方が「50歳でおじいさんやて(それやったらうちら何なん?)」とボソボソと繰り返し言ってました。 ま、まだ若いから仕方ないやん、何度かそう言ってやろうと思いましたけどやめました。 ええ、僕もおじいさんに近い年齢ですし・・・

その山田さんによるピアノのソロで、ドビュッシーの「月の光」と「花火」。 いずれもパッションを感じさせる力のある演奏が見事でした。 あたり前なんでしょうけど、自宅のステレオでドビュッシーのピアノ曲を聞いても印象が薄いのですけどね、山田さんの圧倒的な存在感のある演奏には大いに満足しました。 

「月の光」では、透き通って綺麗なピアノの音色に痺れました。 しかも深みや、余韻も見事演出し、ぐっと踏み込む力強さにはぐっと感じるものがありました。 決して表面的なキラキラ感だけでない演奏に惹かれました。
「花火」は超絶技巧、息もつかせぬテクニックに圧倒されるとともに、ここでも踏み込みが効いて、深みを感じさせる素晴らしい演奏。 しばしステージに目と耳が釘付け状態になっていたことを白状します。 存在感のある演奏だったと思います。

15分間の休憩。 じっと席を離れることなく過ごします。 ウィークデイは多忙で目が回るほど忙しく、疲れが抜けていません。 でもこの演奏会前に30分ほど仮眠できたので体調は万全・・・でも、なんだかウロウロする気もせず、おとなしく座って後半の開演を待ちました。

後半の開始、まず五十嵐さんが登場してバルトークの「蚊の踊り」についてのスピーチ。 何度も何度も「あっという間に終わりますから」と言われ、袖に下がる前にもまた「あっという間に終わりますから」と念を押されると、かえってどんな曲かなぁ、と期待してしまいますけどね。 期待どおりの演奏でした。

バルトークの「蚊の踊り」、五十嵐さんと海田さんが1つの譜面台を見ながら立って演奏されました。 揺れるようなタララララ〜♪ といった感じの旋律を2丁のヴァイオリンが奏でます。 途中に若干盛り上がり、また同じタララララ〜♪ の旋律でかけあって大きくはずんでおしまい。 あとの斎藤さんのお話では48秒だったとか。 面白い経験になりました。

その斎藤さんによって次のダビット・ポッパーについてのお話。 まずパンフレットの没年が誤っていることの訂正(1945年→1913年)があり、ポッパーの紹介。 ポッパーさん、チェロを弾かれる方には有名な人とのことですが、たぶん初めて聴く名前です。 チェコのチェロの名手で、作曲家でもあった方とのこと。 テクニックを駆使し、聴くのはチャーミングだけど演奏するのは大変な曲が多いとのことでした。

ポッパーのセレナード、渋いチェロの響きが基調ですけど、スピーチにもあったように要所にさりげなく難しいパッセージを盛り込んだ曲でした。 超絶技巧で迫ってくるような感じではないのですけど、斎藤さんの的確なテクニックで危なげありません。 華やかさにはちょっと欠ける感じですけど、深くしんみりとした表情がよく出た演奏でした。 ピアニストの山田さんも気持ちのよくのった伴奏で盛り上げ、最後は両者が弾けるようにして曲を締めました。

続いてまた斎藤さんが登場されてサン=サーンスのお話。 哲学や天文学にも造詣が深く、音楽は良い意味でのライトさが特徴的であるとのこと。 今回演奏されるピアノ三重奏曲第1番は演奏されるのが珍しい曲だそうですが、ピアノが星の輝きのようにキラッキラッと輝いて天体のイメージがあるとのことでした。

プログラム最後の曲となるサン=サーンスのピアノ三重奏曲第1番。 熱く落ち着いていながらも確かにライトな感じのした演奏でした。 ちょっと耳馴染みがなかったこともあって、聞き手として集中力を欠きがちになることもありましたけれど(すみません)、最後は3人とも歌いあげて音楽をぐっと盛り上げたフィナーレを構築していました。

第1楽章、やわらかな響きによる開始。 チャーミングなヴァイオリンのあと、ピアノが煌くように響き、ぐっと盛り上がります。 3人が緊密に絡みあいながら曲を進めてゆきます。 力のこもったアンサンブルですね。 とくに山田さんのピアノが熱っぽく、ノリ良く進めていたのが印象的できた。 たしかにキラッキラッと輝いていました。

第2楽章、若干のチューニングを実施したせいでしょうか、ピンっと張りのあるヴァイオリンの響きが流れます。 弓をゆっくりと動かすと、ピアノも寄り添うってきた始まりでした。 ここにチェロが加わり、しっとりと音楽を流してゆきます。 瞑想的な感じのする音楽です。 斎藤さんのチェロが深くゆったりと奏で、五十嵐さんが濡れたような響きで応えると、山田さんの凛とした旋律が引継ぐ。 そして冒頭のメロディに戻って、そっとこの楽章を終えました。

第3楽章の前にもチューニングを実施。 弾むようなピアノの響きで始まると、チェロのピチカートが続きます。 ここにヴァイオリンが加わって熱いアンサンブルになりました。 ここでもピアノが煌くようでしたね。 熱いアンサンブル、でも常に斎藤さんは落ち着いて弾いてらして、五十嵐さんも凛とした表情です。 清潔感のある演奏が展開しました。

第4楽章、豊かなチェロの響き、煌くピアノ、清楚なヴァイオリン、3者の特徴を出しつつそれぞれに歌います。 明るくライトな音楽ですけど、次第に力が漲ってきました。 山田さん、ここでもぐっと踏み込んで力を感じます。 先生方に負けずに曲を盛り上げてゆきます。 五十嵐さん、珍しく少し身体を揺らしてチャーミングに弾かれていたようです。 そんな優雅に奏でられたあと、また3者がそれぞれ歌いあげて音楽を盛り上げ、全体を明るく纏めて曲を閉じました。 客席から熱い拍手が沸き起こりました。

恒例の子供による花束贈呈。 子供さん、普段着で飾らないのがまたいいですよね。 身近な音楽会といった感じがします。

アンコールのまえ、五十嵐さんが「感謝の気持ちで、心をこめて演奏します」とのスピーチされました。 そして演奏されたのがシューベルトのノクターン。 この演奏のとても素晴らしかったこと。 艶がのって濡れたようなヴァイオリンの響きに魅了されました。 もちろん斎藤さん、山田さんも充分に歌いあった素適な演奏に心が洗われました。 アンコールを褒めるのは失礼かもしれませんが、実に清々しい気持ちになって会場をあとにすることができました。 今回もまたとても素適な演奏会、存分に堪能しました。