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ならチェンバーアンサンブル 第72回定期演奏会

中欧と日本のセレナーデ戻る


ならチェンバーアンサンブル 第72回定期演奏会
2007年1月14日(日) 15:00  なら100年会館・中ホール

カルウォヴィチ: セレナーデ op.2
柿沼 唯: <桜に寄す>
     滝廉太郎のテーマによる尺八、ヴァイオリンと弦楽のためのセレナーデ

(アンコール)虚無僧: 鶴の巣篭り

ドヴォルザーク: セレナーデ ホ長調 op.22

(アンコール)ドヴォルザーク: セレナーデ 第2楽章再演

独奏: 中村明一(尺八)、五十嵐由紀子(vn)

指揮: 今村 能


「中欧と日本のセレナーデ」と題された、ならチェンバーの演奏会、今年初めての演奏会を大いに楽しみました。

選曲が凝っていましたが、これは指揮者の今村能さんによるものでしょうね。
まずは中欧のセレナーデとして、ポーランドの作曲家カルウォヴィチによる「セレナーデ」作品2
マーラーの交響曲第2番と同じ時代の作品だそうですが、とても親しみやすく、中欧のルロイ・アンダーソンみたいな軽やかさがとても素適な曲でした。
演奏もさすがプロ奏者によるアンサンブル、悪ろうはずがありません。 ならチェンバーらしい纏まりの良さ、特に中低弦がしっかりと響いてきて気持ちよかったですね。 うきうきとしました。

続いて、日本のセレナーデとして、柿沼唯さんが1999年に作曲されたという「<桜に寄す> 滝廉太郎のテーマによる尺八、ヴァイオリンと弦楽のためのセレナーデ」
なんでも日本で2回目の演奏らしく、演奏会によるものとしては初めてだろうとのこと。
独奏者の五十嵐さんと指揮者の今村さんが出てこられ、尺八の中村さん抜きでの演奏が始まり、中村さんが尺八を吹きながらホール後ろから階段を降りて登場。 演奏の最後は、「荒城の月」の伴奏とともに中村さんが退場するというのにも驚きましたが、まず尺八という楽器そのものの魅力に感銘を受けました。

アンコールの曲、虚無僧の「鶴の巣篭り」の解説では、管楽器なのに和音を出していましたし、枯れた響きに力が篭っていて、楽器としての奥深さに目を見張ったしだい。 和楽器は凄いなぁと改めて感心しました。

そして最後は、名曲中の名曲ドヴォルジャークの「セレナーデ」作品22。
気持ちのよく乗ったアンサンブルを存分に楽しませて頂きました。 ここでも中音弦が魅力的。 コントラバスがしっかりと曲を支え、五十嵐さん率いる高音弦も濡れた響きで瑞々しく演奏会を締めました。

いい曲、いい演奏で今年の幕開けが出来て幸せでした。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

もうちょっと早めに着こうと思ったのですけれど、家を出るのがちょっと遅くなったのに、買い物もしたりして、なんと開演5分前に到着。 慌てて当日券を買ってホールに入りました。
ホール内は8割程度の入りでしょうか、ホール後方3/4程度の位置で右側のワ-17を確保して一息つきましたが、ホール内がとても暑い。 ジャケットはおろか、セータまで脱ぎました。

定刻を5分ほど過ぎてから指揮者の今村さんが登場。 パンフレットに何も書いてないので、といつもどおり曲の解説をしてくださいます。
今回のテーマは「中欧と日本のセレナーデ」ですので、セレナーデが夕べの音楽=恋人との語らいの音楽、吟遊詩人が・・・と話されてから、ポーランド出身のカルウォヴィチと曲の解説ですが、その前に中欧の説明。 ポーランド王国、神聖ローマ帝国など、本来ここがヨーロッパの中心であって、東欧のイメージのあるポーランドは、(田舎ではなく)実は由緒正しい欧州の中心だというような話をされたので、一連の解説だけで15分もかかってましたね。 でもいい勉強になりました。 解説のあとメンバーが出てこられて、4-4-3-2-1 の編成です。

ところでカルウォヴィチは、リトアニア生まれで10才でワルシャワに定住し、10才代後半にベルリンで音楽を勉強したそうです。 このセレナーデは学生時代に書かれたものとのこと。 マーラーが交響曲第2番を作曲していたのと同じ時代の作品だそうです。 カルウォヴィチは、自転車とスキーが大好きな青年だったそうで、このセレーナデもうきうきとして憧れに満ちた音楽とのこと。 日本で演奏されるのは2回目だとかおっしゃっていたような(ちょっと失念)。

確かに、とても親しみやすい音楽でした。 中欧のルロイ・アンダーソンみたいな感じでしょうか。 軽やかで、ときにジャズっぽく感じる部分もあったりして、とても素適な曲でした。 演奏もまたさすがにプロ奏者によるアンサンブル、悪ろうはずがありません。 ならチェンバーらしい纏まりの良さ、特に中低弦がしっかりと響いてきて、とても気持ちの良い演奏でした。

第1楽章マーチ、今村さんの軽い鼻息とともにコントラバスとチェロのピチカート。 このあと爽やかな高音弦が流れ出てきました。 この軽やかさ、ルロイ・アンダーソンに似ている、と即座に思いました。 真摯な演奏も爽やかで、しっかりと響くコントラバスの音がじつに心地良いんです。 柔らで伸びやかな音楽、そして中低弦のよく響く音楽が交互に出てきましたが、ちょっと真面目っぽい演奏かも、なんて思えましたけどね、洒落た音楽です。 最後はスピードを上げてふわっと着地しました。

第2楽章ロマンス、今村さん、目の前の蝶々を両手でそっと捕まえようとするような感じで、ふわり、と振り始めます。 ゆったりとしたヴァイオリンの響き、哀愁というのかな、懐かしさを感じさせる音楽ですね。 チェロの旋律をヴァイオリが繰返し、ゆったりと掛け合っているのは語らいでしょうか。 そして満たされた弦アンサンブルによるロマンス。 あこがれを持った音楽を楽しみました。

第3楽章ワルツ、豊かなアンサンブルによる序奏に続き、流れるような軽やかなワルツ。 今村さん、ふわふわっと大きく振って、さっと止めます。 低弦の旋律を勢いつかせると、今度はヴァイオリンが爽やかに歌います。 これを繰返して、豊かな感じを増幅させているみたい。 アンサンブルの各パートが歌ってますね。 いい演奏です。 スピードを上げ、ぐっと力が入ったまま終了。 響きがホールに残りました。

第4楽章フィナーレは解説によるとクラヴィアークという舞曲だそうで、1拍目にアクセントをおいた音楽が心地よく駆けてゆきます。 この心地よさの中に深みを感じさせるのは、うん、何なんでしょうね。 とにかくここでもとても気持ちいい音楽です。 しばし聞き惚れました。 豊かな中欧、そんな雰囲気を醸し出している音楽が駆け出し、響きを合わせて大きく終わりました。
うきうきとする音楽を楽しみました。

コンミスの五十嵐さんが下がって、海田さんがコンミス席につきます。 指揮台の両サイドに譜面台を立てて準備している間、今村さんが登場して解説の時間となります。

日本のセレナーデ、柿沼唯さんによる「<桜に寄す> 滝廉太郎のテーマによる尺八、ヴァイオリンと弦楽のためのセレナーデ」は、1999年イギリス室内管弦楽団の委嘱により作曲されたとのこと。 日本での演奏は、2003年の大英博物館展だったかで天皇皇后列席のもとに行われたのが初演だそうです。 多分このような演奏会で演奏されるのは、今回が始めてだろうとのこと。 なお作曲家の柿沼さん、武満徹さんのアシスタントとして、また武満さんが参加されていた「今日の音楽」のメンバーだったそうです。 なお柿沼さんからの電報の紹介もあり、「荒城の月」はこの曲の主要な要素なのだそうです。

準備が整い、海田さんによるチューニングのあと、今村さんと五十嵐さんが登場。 指揮者の左側の譜面台の前に五十嵐さん、右側の譜面台は空席のままで始まりました。

ゆったりとしたユニゾンによるアンサンブルに、独奏ヴァイオリンが艶やかな響きを絡ませます。 無調音楽でしょうね、ゆったりとした波のような感じで進みます。
しばらくして今村さんが振り返って合図を送ると、ホール後方、右側通路の上から尺八の響きが・・ 振り返ると中村さんが紋付袴での独奏。 そのまま吹きながら階段をゆっくりと下ってステージにたどりつきますが、この通路に近かったので、傍を通ったときの尺八の響きのなんと多彩なことに驚きました。 遠くで聴くと、枯れた響き、として括られしまうのでしょうけれど、ヴィブラートの中に色々な響きが隠されているのですね。

さてステージの右に尺八が立ち、アンサンブルの響きを従えて吹きます。 アンサンブルの響きは変わらずゆったりと伸ばして波打つよう。 今度は独奏ヴァイオリン、こちらもまたゆったりとしていながらも強い響き、 そしてまた尺八の枯淡の響き、いずれもアンサンブルと一体化してますね。 どこか武満徹の音楽に近いものを感じました。

今村さん、左右を見ながら出を合図し、大きく丸く振りながら曲を進めてゆきます。 そして「荒城の月」。 まずはアンサンブル、そして独奏ヴァイオリンと清楚な演奏です。 尺八の中村さん、その音楽に送られるように尺八を持ち、降りてきた階段を今度は昇ってゆきます。 頂上に立ち、最後は犬か狼か、遠吠えにような尺八の響きを発し、アンサンブルは響きを極端に抑えます。 指揮者の今村さん、身体を前屈姿勢として2つ折り状態。 手の平をヒラヒラと振っていたのをそっと止めて全曲を終了。
日本のセレナーデ、無調音楽ながら落ち着いた雰囲気の漂う曲、演奏を楽しみました。

このあと、中村さんによるアンコールは虚無僧の曲で「鶴の巣篭り」。
まずは解説で、羽ばたく親鶴、続いて子鶴の羽ばたき、そして両者の羽ばたきを表現されて、和音が出るのですね。 会場内も驚きでちょっとどよめきました。 この曲・演奏、なんとも言えない空気感が漂うもので、和楽器は凄いなぁと、改めて感心しました。

休憩は20分間だったでしょうか。 ホール後方のロビーのようなところのイスに腰掛けて少々クールダウン。 ちょっと慣れたようですが、まだ少し暑い感じです。 トイレにも行って落ち着いてから席に戻ります。

定刻、今村さんが出てこられて解説が始まります。 時間も押しているせいでしょうか、ドヴォルザークの発音のこと、セレナーデは幸せの絶頂期に書かれた作品であること、そして各楽章の簡単な解説をして下がりました。 メンバーが 4-4-3-2-1 の編成で揃って準備完了。 今村さんも出てこられていよいよ始まります。

ドヴォルザークの「セレナーデ」作品22。 気持ちのよく乗ったアンサンブルを存分に楽しませて頂きました。 ここでも中音弦がとても魅力的。 コントラバスがしっかりと曲を支え、五十嵐さん率いる高音弦も濡れた響きが瑞々しく、演奏会の最後を締めました。

第1楽章、柔らかな弦の響きによる滑り出し、これにチェロがこだまを返します。 ヴィオラの響きが豊かですね。 中音弦がとてもしっかりとしていて、ヴィオラのトップの植田延江さん、チェロのトップは斎藤健寛さん、お馴染みのメンバーが軽やかに歌わせてます。 またコントラバスのピチカートが豊かで心地良いですね。 この心地よいコントラバスの響きは佐々田ゆかりさん。 柔らかな響きによるアンサンブルを存分に楽しみました。 そして最後は消え入るように終止。

第2楽章、艶やかながらちょっと憂いを含んだワルツ。 ヴァイオリンがまろやかな響き。 今村さんは大きく丸ぁるく振って曲を進めます。 柔らかに盛り上げたのをスパっと切りますが、流線型の切れ味ですね。 刺激的な響きはまったくありません。 ならチェンバーらしい上質な響きがとても清楚。 しなやかながら強靭な響きがまた心地良いんです。 今村さん、うまく乗せてゆき、気合入れていってふわっと丸く止めました。

第3楽章、中低弦が快活に弾いて始まります。 スピードを上げても軽やか、端正な感じかな。 チェロの旋律にはあまり色をつけませんね。 ちょっと淡々と進めているような感じもしますが、落ち着いた音楽は安心して楽しめます。 なだらかな旋律を落ち着いた音色のチェロ、そしてヴァイオリンが奏し、今村さんが力を入れ、ぐっとすくい上げるようにして止めました。

第4楽章、ゆったりとしたアンサンブル、艶のある落ち着いた響きが魅力的ですね。 ゆったりとした低弦、しっとりとしたチェロ、ヴァイオリンもひっそりとしてて、アンサンブル全体で寄せては返す波のような感じかしら。 テンポが変わっても、今村さん、緻密に纏めた音楽はそのままですね。 綺麗な音楽がまたしっとりと流れます。 静かに旋律を置くようにして閉じました。

第5楽章、高音弦と低音弦が左右に分かれ、リズミカルでキレの良い音楽が流れます。 でも音色は落ち着いていて、今村さんが小さく振って快活に進めます。 覇気を感じます。 そして今度は瑞々しい音楽になりました。 最後の楽章なので演奏者の皆さんも乗っているのでしょうか。 左右の弦の掛け合い、次第にまた熱を帯びてきて活気づいたのを、すっ〜と退いて冒頭のメロディを懐かしさを持って登場させて回想シーン、うっとりきます。 そして瑞々しい活気とともに全曲を閉じました。

ならチェンバーアンサンブル、今回も素適な演奏会でした。 いい曲、いい演奏で今年の幕開けが出来て幸せになりました。
でも奈良市の財政難のためでしょうか、次回開催についての案内が入っていないのが少々気になりますが、是非とも長く続けていって欲しいものです。