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伝田正秀ヴァイオリン・リサイタル

素晴らしい才能に触れた一夜戻る


伝田正秀ヴァイオリン・リサイタル
2007年10月19日(金) 19:00  ムラマツリサイタルホール新大阪

エルガー: 愛のあいさつ
ヴィターリ: シャコンヌ ト短調
イザイ: 無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番ニ短調「バラード」
ヴィエニャフスキー: 華麗なるポロネーズ第1番ニ長調
メンデルスゾーン: ヴァイオリン協奏曲ホ短調
マスネ: タイス瞑想曲
パラディス: シチリアーノ
モンティ: チャールダーシュ

(アンコール)ヴュータン: アメリカの想い出「ヤンキー・ドゥードゥル」
(アンコール)アイルランド民謡: ロンドンデリー

伴奏: 片岡美津 (p)

独奏: 伝田正秀 (vn:ガスパール・ディ・ベルトロッティ,1580年)


1979年5月5日長野市生まれ、若き仙台フィルハーモニー管弦楽団のコンサートマスター伝田正秀によるヴァイオリンリサイタル。 終演後、隣に座っていた若い女性が、もっと聴いていたい、と興奮冷めない様子で洩らしていたことがすべてを物語っていました。

伝田さんの演奏は、アグレッシブというのとはちょっと違うかもしれませんが、常に前向き。 技巧的なパッセージにおける安定感は言うに及ばず、ヴァイオリンの音色、響きを少しも損なうことなく、真正面から熱く音楽を伝え、客席から何度も嘆息を誘っていました。

特に前半の最後を飾ったヴィエニャフスキーの華麗なるポロネーズをロマンティックに熱く歌い、そして締めとしたモンティのチャールダーシュでは技巧の粋を尽くし、プログラムにも書いてあったとおりの全身全霊で演じ切った迫力。 客席を圧倒していました。

そしてまたメンデルスゾーンのヴァイオリン協奏曲、大きなホールの生オーケストラで聴くと少々欲求不満を感じることの多い曲ですが、見晴らしの良いピアノ伴奏を従え、艶やかな光沢で堂々と鳴らした演奏にこの曲の新たな魅力を感じました。

個人的には第2楽章ではもっと退いて思索的、ふっとこぼれ落ちるような溜息、そんな枯れた味わいも期待したのですが、艶やかに歌い綴っていったのは若い情熱の迸りと感じました。 人生の折り返し地点を通り越した当方とは違い、枯れた演奏を期待するのは早計と反省したしだいです。

なお使用したヴァイオリンは、1580年にガスパール・ディ・ベルトロッティによって製作されたものとのこと。 素人の耳にも分かる琥珀にも似た落ち着いた音色、そして奥行きを感じさせる響きを目の当りに聴き、酔いしれました。

とにかく伝田さんのヴァイオリンから迸り出た熱い想い、そして大いなる歌、素晴らしい才能に触れた一夜でした。


簡単にリサイタルを振り返ってみたいと思います。

クラシック音楽のお気軽リスナーとして、最近はとくにアマオケ関連のサイトになっている我がホームページですけれど、思いもかけず「ひびき音楽事務所」さんより、仙台フィルのコンサートマスター伝田正秀さんのヴァイオリン・リサイタルにご招待いただけることになりました。 そそくさと仕事を切り上げ、新大阪のムラマツリサイタルホールへと向かいました。

今週は楽ちんな一週間でしたが、来週は出張ウィーク。 まずは新大阪駅、演奏会の前に来週の出張の座席指定を受けようとみどりの窓口に足を運びましたが、さすがに金曜日の夜。 多くの人でごったかえしていたの即座に断念し、雨の中、そのままホールへと足を進めました。

そんなこともあり開場時間よりも早めに到着。 ベーゼンドルファーのショールームをガラス越しに眺めたり、ホール入口横に掲示しているチラシを眺めて時間を潰しました。 開場時間、受付が始まっても誰も入ってゆかない・・・ちょっと気後れしましたけれど、立っているのもしんどいので一番で入場。 ホールに入っても、迷うのが面倒なので、最前列に陣取りました。 かぶりつきですね。

ステージを見ると、ピアノが1台。 Bluther(uはウムラウト)、ブリュートナーの銘があります。 珍しいドイツ・ピアノですね。 そんなピアノをぼんやり眺めたり、パンフレットやチラシを読んだりして、のんびりと開演を待ちました。 夕方にはあがると予報されていた雨が降り止まず、客足が鈍いのかなぁ。 定刻前のアナウンス時、振り返って見ると、7割近くの入りのようでした。

定刻を2、3分ほど過ぎ、ステージを照明が照らすと、燕尾服姿の伝田さんが伴奏者の片岡さんとともに登場。 軽く音合わせをして始まります。

エルガーの「愛のあいさつ」、お馴染みの曲ですが、落ち着いた音色で丁寧に弾いたという印象でした。 伝田さんは落ち着き払って弾いていましたが、一番前の席にいた当方、じつは至近距離なんでちょっと緊張気味だったりして、よく覚えていません。 もうちょっと伸びやかだったらな、とも思いましたけど、これが雨による影響か、ヴァイオリンの特性によるものなのか、はたまた解釈なのかも判らず終わってしまいました。

続いて、ヴィターリの「シャコンヌ ト短調」、冒頭こそこれも落ち着いた演奏だな、という印象でしたが、伴奏ピアノの譜面を1枚めくったあたりより伸びやかさが出てきたのではないでしょうか。 ドラマティックな高ぶり、緻密な表現、技巧的なパッセージと熱く歌ってこの曲を締めました。 伝田さんの演奏、テクニックにおもねるのではなく、常に気持ちが先行しているように感じた演奏でした。

ここでいったん引き上げて、伝田さんのみ登場してイザイの無伴奏ヴァイオリン・ソナタ第3番「バラード」。 ここでは息をのむほどのテクニック、奥行きのある熱い響きで客席を圧倒しました。 技巧的な難曲でしょうね、個人的にはガチャガチャした感じの曲に思えましたけれど、伝田さんの演奏するヴァイオリンの響きの奥深さ、攻撃的にはならない力強さ、これに感じ入ったしだいです。

ここでもいったん退場、まだ20分しか経っていませんが次はもう前半最後のプログラム、なんだかすでにお腹いっぱいに音楽を聞いた気分です。

ヴィエニャフスキーの華麗なるポロネーズ第1番。 弾むような力強いピアノの響きで始まりました。 これを受けた伝田さんのヴァイオリンが艶やかで張りのある響きで歌います。 力も入っているのでしょうね、弓の毛が切れるほどの熱演。 間奏でもピアノが熱く入ってきて、これをまた伝田さんが濃厚なロマンティシズムで歌い込み、まさしく華麗なるポロネーズそのものって感じ。 堪能しました。

15分間の休憩。 振り返って見てみると8割近く入っているのでしょうか。 最初は3人しか居なかった最前列も、開始直前に飛び込んできた若い女性2人組など計8人。 けっこう客足も伸びたみたいです。 そしてヴァイオリンのケースを持った人も目につきますね。 素晴らしい勉強になっているのではないでしょうか。
定刻、ステージが明るくなって伝田さんと片岡さんが登場。 軽く音を合わせをして始まります。

メンデンルゾーンのヴァイオリン協奏曲、大きなホールの生オーケストラで聴くと少々欲求不満を感じることの多い曲ですが、見晴らしの良いピアノ伴奏を従え、艶やかな光沢を堂々と鳴らした演奏に、この曲の新たな魅力を感じました。 個人的には第2楽章ではもっと退いて思索的、ふっとこぼれ落ちるような溜息、そんな枯れた味わいも期待したのですが、艶やかに歌い綴っていったのは若い情熱の迸りと感じました。 人生の折り返し地点を通り越した当方とは違い、枯れた演奏を期待するのは早計と反省したしだいです。

第1楽章、見晴らしの良いピアノ響きによる前奏に続き、想いをのせた伝田さんのヴァイオリンがたっぷりと熱く歌い上げてゆきます。 ピアノ伴奏版はオケ版と全く遜色ないどころか、オケでは埋もれてしまいがちなロマンもびんびんと伝わってきます。 カデンツァも息を飲むほど美しかった。 駆け込むようにしてこの楽章を熱く終了。

アタッカで第2楽章、艶やかな響きを存分に使いつつも凜とした歌として進めます。 少々ロマンティックに過ぎるかな。 思索的で、ふっとこぼれ落ちるような溜息、そんな枯れた味わいも期待したのですけれど、音楽が前に前にと進んでゆくみたい。 これは若い情熱の迸りと理解しました。

アタッカで第3楽章、ゆっくりと歌い始め、そして軽快に駆け出します。 抜群のテクニックで軽やかな高音、奥行きのある低音、リズミカルに自在にヴァイオリンを操って客席を圧倒。 オケの響きがないぶん、ダイレクトに旋律が飛び込んできていることもあるでしょうが、伝田さんの響きには、どんなに速くなっても常に艶が乗っていて、歌が感じられます。 そして圧巻のフィナーレを堂々と弾いて纏めあげました。

いったん退場し、再び登場。 客席はまだ協奏曲の興奮が冷めないのですが、マスネの「タイス瞑想曲」、とろけそうなヴァイオリンの美音ですぐさま空気を一変させました。 しかもただ美しいだけではなく、ここでも気持ちを熱く込めた演奏が実に素晴らしい。 柔らかな高音、低音の深い響きを操って綺麗。 美しい音楽として客席を魅了し、そして最後の一音、弓を離すとき、気持ちを乗せすぎたのでしょうか、足元がふらっとしたようにも感じました。

続いてパラディスの「シチリアーノ」、こちらも静かで綺麗な演奏ながら、熱い想いがこもっていました。 伝田さん、気持ちがどんどんと前に前にと出てくるような感じですね。 このリサイタル、最初こそ理知的な感じかな、などと思ってみたりもしましたが、どんどんとエモーショナルになってきたのではないでしょうか。

そして最後のプログラム、モンティの「チャールダーシュ」、これもお馴染みの曲ですが、伝田さんの気持ちが常に前面に出たまさに入魂。 ハルモニクスもとても綺麗な響きで言葉がありません(一番前で聴けて幸せでした)。 技巧の粋を尽くし、プログラムにも書いてあったとおりの全身全霊で演じ切った迫力、客席を圧倒してプログラムを終了しました。 熱い拍手がホールを埋めました。

アンコールは2曲、ともに想いをたっぷりと乗せた演奏で客席を魅了。 伝田さんのヴァイオリンの魅力を存分に味わって20時30分の終演、あっという間のリサイタルでした。 終演後、隣に座っていた若い女性が「もっと聴いていたい」と興奮冷めない様子で洩らしていたことがすべてを物語っていたと思います。

とにかく伝田さんのヴァイオリンから迸り出た熱い想い、そして大いなる歌、素晴らしい才能に触れた一夜でした。 「ひびき音楽事務所」さん、どうもありがとうございました。