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新日本交響楽団 第87回定期演奏会

重層的に鳴り響く戻る


新日本交響楽団 第87回定期演奏会
2011年11月27日(日) 13:30 文京シビックホール

ワーグナー: 楽劇「トリスタンとイゾルデ」より前奏曲とイゾルデの愛と死
グリーグ: 「十字軍の兵士シグール」よりオーケストラのための3つの小品 Op.56
シベリウス: 交響曲第1番ホ短調 Op.39
       (ティモ・ヴィルタネン校訂によるシベリウス全集、ブライトコプフ版)
(アンコール)シベリウス: アンダンテ・フェスティーヴォ

指揮:新田ユリ


新日本交響楽団、素晴らしい技量を持ったアマチュアオーケストラです。 そのなかでもシベリウスの交響曲第1番、気持ちの入り方が違っていましたね。 オケのすべての楽器が重層的に鳴り響いた素晴らしい演奏でした。

とりわけ第1、2楽章が素晴らしかったように思いました。 前半プログラムでは、巧いけれども何か足りないナ・・・と感じていただけに、後半プログラムが始まった瞬間より、熱気に目を見張りました。 深い呼吸、音色、そして絶妙な間の取り方といい、惹き込まれてしまいました。 指揮者の新田さんの動きも心持ち大きくなってエモーショナルだったでしょうか。 抑揚のつけ方が大きくなっていたように拝聴しました。 とにかく本場仕込みですものね。 ずんずんと前に乗り出すようになって聴いていました。

もちろんオーケストラの機動力は満点です。 しかも、金管、打楽器などが不用意に突き抜けて響くようなことなどなく、全体の響きの中に収まっていました。 響きが横に広がってゆく感じ。 素晴らしい演奏に感謝。 感動的でもありました。 さすがに当日の朝、高知より帰った疲れも出てきましたが、それを忘れさせてくれた演奏に満足し、ホールを後にしました。


簡単に演奏会を振り返ってみたいと思います。

高知より長距離バスで戻ってきたのが朝7時。 千駄木の端っこにある単身赴任部屋で一息ついたあとの12時、同じ文京区内とはいえもう一方の端にある後楽のシビックホールまで歩きました。 いつもの散歩コースといえば、そうなのですが・・・ 気ままなぶらり散歩とは違い、開場時間前に着きたい、そんな思いが先走るので、自然と足早になってました。 40分で到着。 我ながらタフやな、と感心したしだいです。

文京区役所のあるシビックセンター、異様な形をしているのをいつも目にしてますし、この建物の前もよく散歩で通りますが、中に入るのは、実は初めてです。 到着したら、どこかに腰掛けて、持ってきたポットの紅茶でも飲んで一服・・・と思っていたのですが、すでに長蛇の列が地階にまで伸びてました。 休む間もなく慌てて階段を降り、最後尾を目指して更に進み、ようやく列に並んで、なんとか気持ち落ち着きました。

開場は定刻より若干早かったでしょうか。 初めてのホールですけれど、馬鹿と煙は高いところに昇るの格言(?)のとおり、上の階を目指します。 座席案内板を確認し、3階席と書かれていたと思いますが、上部席最前列 9-29 に身を沈めました。 ステージの見晴らしが良いのは当然ですが、多少足元が広いのが期待どおり。 プログラムやチラシを眺めて開演を待ちました。

ステージ上ではコントラバス軍団の4名の方が練習されていて、あとハープ奏者の方がチューニングをされてましたけれど、開演5分前、楽屋に下がられました。 1階席は8割近く入っているでしょうか。 2階席は3割程度かな。 定刻を告げるチャイム、そしてアナウンス。 携帯電話やアラーム付きの時計などのいつもの注意のあと、地震発生時の対応について、このホールは震度7でも耐えられるので落ち着いて座席の肘掛などを持ってじっとするように、とのこと。 こんなアナウンス、始めてですよ。 驚きました。

定刻を5分ほど過ぎ、開演を告げるチャイムのあと照明が徐々に落ち、左右の楽屋より整列入場が始まりました。 13-14-12-10-7 の通常配置。 コンマスが立ち上がってチューニングを実施して、準備完了。 指揮者の新田さんがさっそうと登場します。 細身の黒いパンツに燕尾服スタイルの上着。 2005年1月、大阪大学交響楽団との演奏会での時と同じだったでしょうか。 ただ当時は長髪を後ろで束ねておられたようですが、今はショートカット。 貫禄が出てきた、と言っては女性には失礼でしょうか。 それはともかくコンマスと握手をし、客席に向かって一礼のあと、登壇。 いよいよ始まります。

ワーグナーの「トリスタンとイゾルデ」から前奏曲と愛と死、透明感のある響きで統一された丁寧な音楽造りに感心しました。 新田さん、各パートをしっかりと見て、的確な指示を繰り出します。 そしてそのニュアンスまでも見事に応えるオーケストラの面々。 巧いですねぇ。 タイトなクライマックスの盛り上がり、そして残り香を漂わせつつ静かに落ち着いた着地も見事で、とても高いレベルの音楽でした。 ただ、個人的にはもうちょっと包容力というのかな、少々ドラマティックにあって欲しかったかも、なんて思ってしまいましたけれど。 贅沢な要求ですね。

管打楽器のメンバーが少々入れ替わりましたので、チューニングを行い。 2曲目の準備完了。 新田さんが小走りで楽屋より出て来られました。 一礼して登壇。 始まります。

グリーグの「十字軍の兵士シグール」よりオーケストラのための3つの小品、初めて聴く曲だったでしょうか、こちらも丁寧で落ち着きと自信も感じた巧い演奏でした。

第1曲「力くらべ(王の広間にて)」、やわらかなピチカート、木管の響きに艶がありました。 左右に響く弦の分奏の分離が良く、堂々としてよく訓練されたキレのある響きが印象的。 甘くせつないオーボエ、柔らかなフルートの音色、深みのあるクラリネットにファゴットが絡んだ木管楽器、素晴らしかったですね。

第2曲「ボルグヒルの夢」、静かなティムパニのトレモロよりチェロのうごめくような響き、高音弦もどこか不安気な旋律を絡めた夢の世界。 チェロの歌がほの暗く奏で、巧いなぁ。 そして悪夢でしょうか、コントラバスの強い響きと打楽器によるクライマックス。 実によくコントロールされた響きです。 新田さんの思い通りでしょう。

第3曲、明るいファンファーレによる開始。 これをすっと退いて、チェロの朗々とした旋律、やわらかな陽光にようなヴァイオリンのアンサンブルが素適でした。 ホルンは柔らかさに押し出しの強さもある素晴らしい響き。 ここでもまたオケの機能性の高さ、そして堂々とし、かつ華やかさをも備えもった質の高さに感心しました。 でもね、巧いのは事実なんですけれど、ドラマを感じないというのか(抽象的ですみません)あまり心には響かないんですよね。 フィナーレも堂々としていて力強いのですけど、汗をかかないという感じかなぁ。 ホント、巧いんですけどね、なんかちょっとのめり込めなかったのは、高知帰りで疲れていたからでしょうか。 すみません。

20分間の休憩、席でじっとして開演を待ちます。 眠くはないんですけど、少々疲れてきているのも事実ですね。 体力温存です。
定刻、照明が落ちると整列入場が始まります。 オケの編成は前半と同じようです。 コンマスが立ち上がってチューニングを実施したあと、新田さんがさっそうと登場。 客席に一礼して、登壇。 さぁ始まるか、と思いきや、しばし沈思黙考されて、集中力が高まりました。

シベリウスの交響曲第1番第1楽章、静かなホールの中にクラリネットの深い呼吸が響きました。 音色といい、間の取り方といい、いきなり惹き込まれてしまいました。 そして、ヴァイオリンの透徹した響き、ここから始まる弦の各パートが絡んで走り始めると、気持ちが高揚し、思わず前に乗り出すようになって聴いてしまいました。 畳み掛けるホルンも抑えが効き、リズミカルに打つティムパニなどなど、オケのすべての楽器が重層的に響いて素晴らしい。 しかも凄まじいばかりの熱気が秘められています。 コレ、これですよ、今までの演奏で何か足りないと思っていたのは。 新田さんの動きも大きくなってエモーショナル。 抑揚のつけ方も大きくなっているように拝聴しました。 シンバルの一撃から、大きく波打つように絞り込んでゆくところもまた見事。 ここから徐々に大きな弾力をつけ、最後のクライマックスへ。 重い響きのトロンボーンに耳を奪われて、最後はヴァオリンの息をのむピチカートで終結。 素晴らしかった!

第2楽章、ホルンののどかな響き、これに弦楽アンサンブルが柔らかく絡んで、木管も抑え気味でとてもよく制御された音楽。 しだいに明るさが増し、ファゴットの素適な響きがチャーミングでした。 金管が加わって力を増して全奏へと、息もつかせぬほど見事な演奏。 よく伸張するオケの響きが素晴らしい。 牧歌的なアンサンブルにもうっとりとしました。 とにかく各パートがよく纏まっていて、それがまた呼応しながら歌い上げてゆくのですが、気持ちがよく入っていますね。 なのでこちらもずんずんとまた前に乗り出すようにして聴きました。 エンディングに向かって、息もつかないほどの盛り上がり。 それをそっと退いて、抑揚をつけた旋律が心の襞を撫でます。 絶妙の間の取り方なのは、新田さんの本場仕込みであるからでしょう。 これらの幸せな時間、新田さんの左手のひらですっと収まりました。

第3楽章、ヴィオラとチェロのピチカート、息づいた響きにまず吃驚。 そしてオケが走り始めると、めくりめくようなオケの響きにまた惹き込まれました。 まろやかで、しかも転がるようでいて、そして要所を突くティムパニの打音。 機動力満点ながらも、刺々しくならない上質な響きです。 丁寧なトリオから、また徐々に力を増してゆきます。 金管の甘い響きと、木管の柔らかな響き。 各パートの音色が統一されているのがまた素晴らしいですね。 ぐっと力の籠もった終結まで、あっという間でした。

第4楽章、両手を横に広げた新田さん、真摯な響きでの開始でした。 幻想的ともいえる響きが抑揚しています。 澄んだフルート、オーボエの真摯な響き、中低弦の重厚な響きがじっくりと奏で、しだいに走り始めます。 弦楽器の分奏がよく締まっていて、凝縮した響き。 タイトなパーカッションで、キレのいい音楽がホールに刺さるようです。 第2主題はたっぷりと、落ちついた響きに熱い気持ちが感じられました。 ドーンと打ち付けるようにして、また徐々に力を増しますが、ここでも統一感のある響きが素晴らしい。 機動力満点。 しかし金管、打楽器が突き抜けて浮くことなく、全体の響きの中に綺麗に収まっています。 響きが横に広がってゆくような感じ。 雄大にテーマを刻んで、じっくりと歌いあげてゆくフィナーレも感動的。 ティムパニのロール、そしてピチカートでそっと終わると、しばしの静寂。
この静寂もまた素晴らしかった。 そして熱い拍手が沸き起こり、ブラボーも納得です。 気持ちののった演奏に強い拍手を贈りました。

前半プログラムとは気持ちの入り方がまったく異なっていたように思いましたが、とにかく素晴らしい演奏に満足。 さすがに高知帰りの疲れも出てきなしたが、それを忘れさせてくれた演奏に感謝し、ホールを後にしました。 ありがとうございました。