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廉価盤CD楽しみ
2000.2.18、2002.9.28 一部改版

廉価盤CDは値段が手ごろで、気楽に音楽を楽しむのには良い存在です。まずは、廉価盤CDから適当に選んで聴きはじめるのも面白いものです。でも、その廉価盤CDも、いわゆるメーカーからリリースされている有名なものから、正体不明なものまであります。ここでは、メーカーからリリースされていない、いわゆるバッタもんCDについて述べてみたいと思います。

バッタもんCDとは

バッタもんCDとは、通称バッタ屋とも呼ばれるディスカウントショップ、本屋などで安く叩き売られている音楽CDを(勝手に)総称して呼んでいます。
中には、通常のCD屋に持ち込まれているもの、通販などで入手できることもありますが、継続的に入荷されることはほとんどなく、「売り切り」が基本となっています。
例外的に、隔週で発売されているCD付き雑誌「THECLASSICCOLLECTION」(ディアゴスティーニ・ジャパン発行)が入手しやすいですが、後述しますが幽霊演奏家(実在しない演奏家)のCDを多く含んでいます。ちょっとお勧めできません。

バッタもんCDの種類

バッタもんCDには、おおむね2種類に別れます。著名な演奏家・オーケストラによる古い録音をもとにしているもの(合法海賊盤とここでは定義しておきます)  と、東欧諸国の演奏家・オーケストラによる出所不明なものです。
個人的には後者について非常に興味を持っており、無名ではあるが優れた演奏(これを定義付けることは難しい問題ですが、要するに自分が気に入った演奏と解釈しましょう)を掘り当てる「宝探し」の要素を含み、日夜捕獲に励んでいますォィォィ...

海賊盤・合法海賊盤について

正規の録音による音源を使用したものではなく、市販のCDやFM放送などを音源としたCDなどを海賊盤と呼びます。音楽の著作権法では、個人で楽しむもの以外の複製は、違法行為となりますが、抜け道があり、それが「合法海賊盤」として市中に出回っています。もちろん海賊盤ですから著作権者へのロイヤリティの支払いはないと考えるのが普通です。
その抜け道とは、音楽著作物をCDなどに複製する権利(著作隣接権)の保護範囲が、以前の著作権法では昭和46年1月1日以前のものには適用されないことになっていたためです[過去形]。  よってそれ以前の録音については、自由利用できることになっていました。
これについては欧米諸国がWTOに提訴したことにより、実演が行われた50年前までに溯って適用されるように著作権法が改正され、平成8年12月26日に公布されました。
具体的には、WTO加盟国における昭和46年(1971年)より前の音源を利用したCDなどについては、実演が行われて50年を越えないと自由利用が出来なくなりました。ただし、この改正された著作権法が施行される前に作られた複製物(CDなど)については頒布が可能である、とされています。よって、いまだに店頭に並んでおり、これを売ることは不法行為とはなっていません。

出所不明CDについて

出所不明CDは、東欧諸国の指揮者やオーケストラを使い、コストを安くおさえてはいるものの、演奏水準の高いものや、技量的にはやや劣るけれども演奏にかける情熱・熱気にあふれるものがあります。これらの演奏を聴く楽しみは、メジャーレーベルでの安定した、いわゆる安全運転的な演奏とは一味違った勢いみたいなものを発見することにつきると思います。今やCDの文庫本的な存在としてメジャー・レーベルになったNAXOSも、このような方針によって製作されています(が、NAXOSは、個人的には、安全運転志向ではないかと思っています)。
しかし、出所不明CDの中には、実在しない人物や団体が演奏したものが含まれていることに注意しなくてはなりません。これらは幽霊指揮者・幽霊オーケストラなどと呼ばれています。実際に幽霊が演奏したわけはなく、有名演奏家の録音に架空の名前を付けてばら撒かれているわけです。よって演奏自体は水準の高いものが含まれていますが、正体不明な録音にあえて対価を払って購入するのもバカみたいですから注意しましょう。

幽霊指揮者・幽霊オーケストラについて

実在しない指揮者や、オーケストラのことを、幽霊指揮者(Phantom Conductor)、幽霊オーケストラ(Phantom Orchestra)と呼びます。では、何故このようなものが存在するのでしょう。 これについて、NAXOS や PalcoPolo を出している香港の HNH international のホームページに '96末〜'97始にかけて掲載されていた記事(今はもうありません)によれば、指揮者でありプロデューサのアルフレッド・ショルツ(Scholz)氏が元凶のようです。彼はオーストリア放送の放送録音を買い、これに自分の名前や架空の人物・オーケストラの名前を付けて売ったのだそうです。これらの音源が現在もまだあちらこちらの泡沫レーベルにより、手を変え品を変えるようにして流通し、我々の手元にやってきています。

代表的な幽霊として、次の人たちがいますので、もしこれらバッタもんCDを買うようなことがあれば気を付けておいてください。
まず指揮者では、アルフレッド・ショルツ(Scholz 本当に指揮した録音もあるようですが)、アルベルト・リッツィオ(Lizzio)、ヘンリー・アドルフ(Adolph)、ウラジミール・ペトロショフ(Petroschoff)、カルロ・パンタリ(Pantelli)、ユージン・デュビエ(Duvier)、ペーター・スターン(Stern) ....
オーケストラでは、フィルハーモニア・スラヴォニカ南ドイツフィルハーモニーモーツァルト・フェスティバル・オーケストラベルリン・フェスティバル・オーケストラフィルハーモニー・フェスティバル・オーケストラ.... あと実在するが名前を騙られているものとしてロンドン・フェスティバル・オーケストラロンドン交響楽団の名前が使われているものもあります。
ピアニストでは、ディーター・ゴールドマン(Goldman) 、ヴァイオリニストでは名演と名高いシベリウスの協奏曲を弾いているブルーノ・ツヴィッカー、弦楽四重奏団では、ガスパロ・ダ・サロ弦楽四重奏団... ほかにも色々とありますが、とりあえずこれらの組合せが1つでもある、と購入を控えるのが無難です。
困ったことに、実在する指揮者と幽霊オーケストラが組み合わさっているものも存在します。非常に混乱した世界なのですからこれも仕方ないことかもしれませんが...

とはいうものの、幽霊が演奏したものがあるわけはありません。どこかの誰かが演奏したものが騙られているのです。生気にあふれた演奏であるバッタもんCDの真の演奏者の正体をつきとめる、これがまた一つの楽しみにもなるのですが、まぁ一般にはお勧めできません。
とりあえず、現在判っている正体不明盤については、以下の演奏が騙られていることを手持ちのCDなどより推定しています。

ベートーヴェン:交響曲第3番「英雄」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (幽霊)アルフレート・ショルツ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (幽霊)ウラジミール・ペトロショフ指揮フィルハーモニー・フェスティバル・オーケストラ
 (本物)ズデニック・コシュラー指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

チャイコフスキー:大序曲「1812年」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (本物)アントン・ナヌート指揮リュブリャナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ

マーラー:交響曲第1番「巨人」
 (幽霊)ウラジミール・ペトロショフ指揮フィルハーモニー・フェスティバル・オーケストラ
 (本物)アントン・ナヌート指揮リュブリャナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ

ドヴォルザーク:交響曲第8番
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (本物)ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団

ドヴォルザーク:交響曲第9番「新世界」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (本物)アントン・ナヌート指揮リュブリャナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ

メンデルスゾーン:交響曲第4番
 (幽霊)アルフレート・ショルツ指揮ロンドン交響楽団
 (本物)ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団

メンデルスゾーン:交響曲第5番「宗教改革」
 (幽霊)アルフレート・ショルツ指揮ロンドン交響楽団
 (幽霊)アレキサンダー・フォン・ピタミック指揮ロンドン・ファスティヴァル管弦楽団
 (本物)ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団

ブルックナー:交響曲第4番「ロマンティック」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (本物)ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団

ヴィヴァルディ:「調和の霊感」op3より協奏曲第8・10番
 (幽霊)ザグレブ・ゾリステン
 (本物)アントン・ナヌート指揮ソリスティ・ディ・ザグレブ

ラヴェル:ボレロ
 (幽霊)サーモ・ヒュバッド指揮リュブリャナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ
 (本物)アントン・ナヌート指揮リュブリャナ・ラジオ・シンフォニー・オーケストラ

(注)サーモ・ヒュバッドは実在する指揮者です

シューマン:交響曲第3番「ライン」
 (幽霊)ヘンリー・アドルフ指揮フィルハーモニア・スラヴォニカ
 (本物)ミラン・ホルヴァート指揮オーストリア放送交響楽団

ベートーヴェン:交響曲第2番
 (幽霊)アルフレート・ショルツ指揮ロンドン交響楽団
 (本物)リボォル・ペシェック指揮スロヴァキア・フィルハーモニー管弦楽団

バッタもんCDプレーヤの雄たち

ここでは、バッタもんCDに登場する「実在」の、隠れた実力のあるプレーヤー達を紹介してゆきます。

アントン・ナヌート Anton Nanut

スロベニア(旧ユーゴスラビア連邦の1国)の指揮者。 ナヌット、ナヌーなどと表記されることもある。 彼が振ったリュブリャナ・ラジオ・シンフォニーオーケストラ(リュブリャナ放送交響楽団、現在はスロベニア放送交響楽団と改称されているもよう)との録音は、幽霊のショルツ、リッツィオなどとともにバッタもんCDシリーズには必ずといってよいほど入っている。 逆にナヌートはスロベニアを代表する実在の指揮者でありながら、バッタもんCDシリーズ以外でその録音を捕獲することが難しい。 彼のレパートリーは広く、バロック、古典からマーラー、ショスタコーヴィッチまで有名名曲の録音があり(150種のCDがあるらしい)、まさしくバッタもんCDの帝王の観すらある。
ナヌットの演奏は、指揮しているオーケストラの非力さもあり、一聴すると堅実で薄口で、当たり障りのないもののように思われがちだが、よく聴き込むと、その作品に対する的確な読みとオーケストラに対する指導力により、上質な音楽に仕上がっていることがわかる。 特にマーラーで聴かせる熱い気迫もさることながら、輪郭をはっきりさせたベートーヴェンをさらりと聴かせ、その洒脱な表現はドイツ的というよりオーストリア的なものになっている。 リュブリャナ放送交響楽団の特質もあるが、木管楽器の扱いが特に巧いように思う。

なお、ナヌートの演奏がポニー・キャニオンより国内盤CDとして売られていた時期があります。 詳細は「STANDARD CLASSICS」を参照してください。

  ミラン・ホルヴァート Milan Horvat

クロアチア(旧ユーゴスラビア連邦の1国)の指揮者。 ホルヴァトなどと表記されることもある。 オーストリア放送交響楽団(ORF Symphony Orchestra)首席指揮者として数々の録音を残している。 1919年生まれであるが、現在も精力的にスロベニア・フィルザグレブ・フィルなどと演奏活動を行っているようだ。 1965年に、マタチッチとともにスラブオペラの指揮者として初来日しており、日本にも一部に熱烈なファンを持っている。
ホルヴァートは、スラブ圏および近現代音楽のスペシャリストであり、その演奏が熱いのが信条。 指揮者には、解釈で聴かせるタイプと、勢いで聴かせるタイプの二通りあるが、まさしく後者。 ホルヴァートの熱い演奏の支持者が関西地区に多いのは、朝比奈に洗脳された人間が多いから... という珍説もあるそうだが、真偽は不明。

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